第41話 - VS.ベスタ&ディウブ②
「殺せ」
ベスタが言葉を発するや否や、ディウブがアウラに襲いかかった。
その黒い塊は、目にも止まらぬ速さで激しい体当たりを繰り返す。
お前を倒すのに牙も爪も必要ない、まるでそう言っているかのように、アウラをサンドバッグ状態にするディウブ。
「やめろ、もう……やめてくれ……」
立ち上がれないメルが、ディウブに向かって叫ぶ。
このままでは、アウラが死んでしまう――。
アウラは、その圧倒的なパワーとスピードに付いていけず、右に左に吹き飛ばされるのみ。
そして、ついに起き上がれなくなった。
「ごめんなさい、メル」
「そんな……まさか……」
「バ、バケモノだフム!」
「メルが……アウラが……」
距離を置いて戦いの行方を見ていたヴィオたちが、信じられない光景に立ちすくむ。
「もう一人、絆の民がいるな。いや……二人か?」
ベスタの標的がヴィオたちに移る。
もはや、ベスタとディウブに立ち向かえる者はいない。
二人がゆっくりと近付いてくる。
「まずいフム、ヴィオ、なんとかするフム」
「フムス、お願い。ヒマワリの種を食べていいから、シールドを!」
「分かったフム!」
フムスは隠し持っていたヒマワリの種をこれでもかと口に含み、一気に吹き飛ばした。
種がフムスたちの前に規則正しく並び、扇形を成す。
「お願い……鋼となってヴィオたちを守って!」
その言葉に応じて、ヒマワリの種は光沢を放ち、三人を守るシールドとなる。
「フロールは、ヴィオたちの後ろにいてください」
「わ、分かったわ」
ヴィオの持つ力を見届けて、ベスタがディウブに命じる。
「やれ――」
ディウブは、シールドの存在など気にすることもなく、ただまっすぐに突っ込んでくる。
そして、実際何もなかったかのように、杖を振り回すヴィオを吹き飛ばした。
ヴィオは、人形のように軽々と吹き飛んだ。そして、声も出せずぐったりと横たわる。
アリを見るような目で、震えるフムスの横を通り過ぎ、ディウブは、最後の一人となったフロールに辿り着く。
「い、いや……来ないで……」
フロールが涙目になって後ずさる。
「や、やめろ……ベスタ」
うまく声にならない叫びが、メルの口から漏れる。
「フロール!」
助けに行こうと手足に力を入れるアウラ。だが、体が言うことを聞かない。
メルもアウラも、バズもストラールも、一歩も動けなかった。
「その娘を連れて来い、ディウブ――」
ベスタの命令を忠実に実行する黒いオオカミは、容赦なく体当たりを食らわせ、フロールを砂浜に叩きつけた。
「やめてっ……」
そして、服の襟首をガッとくわえて、抵抗をものともせず、ベスタのもとへ引きずってくる。
フロールのあごを右手で押さえ、血の気が引いたその顔を眺めながら、ベスタは言った。
「絆の民ではない、か。まあ、いいだろう。これで終わっては興ざめだ」
気を失ったフロールを肩に担いで、ベスタは続けた。
「日が沈むまでに、ここから北東にあるサルトゥスの森へ来い。ひとつゲームをしようじゃないか……賞品は、もちろんこの娘だ――」
ベスタとディウブは、悠然と去って行った。
そこには、波の音だけが残されていた。