オオカミか幼なじみか選べない……。

第20話 - バーレ 初めての町

本多 狼2020/09/13 01:05
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 午後三時を過ぎたころ、三人はバーレという町に着いた。

 

「ここは、バーレよ。前にママと来たことがあるわ」

「どんな町なの?」

「確か……クショっていう果物で有名よ」

「変わった名前だね。フロール、それって甘い?」

「まあ、果物だから」

「やった! よし、さっそく三時のおやつを食べに行こう」

「出たっ。メルは昔から、甘いものに目がないわよねー」

「いいじゃんか、フロールだってそうだろ」

「はいはい。そうだ、アウラはどんな食べ物が好きなの? やっぱりお肉かなぁ」

「そうね。アタシの一番は、血の滴っている新鮮な肉」

「……」

「……」

「大丈夫、なんでも食べるから」

「……」

「……」

「大丈夫、あなたたちを食べたりしないから」

「……」

「……」

「冗談よ」

 

 のどかなポルテ村とは違い、町はにぎわっていた。

 ポルテ村が主に林業で成り立っているのに対して、ここにはたくさんの野菜や果物が並んでいる。

 村を出たことのなかったメルには、何もかもが新鮮だった。

 他の村や町に行きたいと思ったことは、もちろんある。

 でも、女手ひとつで育ててくれたマリーには言えなかった。

 今になってようやく分かった。

 誰にも見つかることのないように、マリーはずっと自分を村から出さなかったのだ。

 ポルテ村にはない光景を初めて見て、メルは、いつか母さんと一緒に来たい、そう思った。

 

 市場でクショを買っていると、そばにいた旅人たちが何やら物騒な話をしていた。

「見ちまったんだよ。町の外れに突然でっけぇ蛇が現れて……噛まれた奴ぁ、その毒にやられちまって――」

「蛇なんて珍しくもないだろう」

「そうじゃねぇんだ。とにかく、人間よりはるかにでっけぇ蛇だった。しかも、その蛇を操ってる奇妙な野郎がいたんだよ……あったけぇ陽気なのに、真冬みてぇにフードを被っててよぉ……」

「魔法使いか?」

「怖くて隠れてたからよく分からねぇが、そいつ、何やら蛇に話しかけててよぉ。気持ち悪いったらありゃしねぇ」

 

 メルは気になって二人に話しかけた。

「あの――それは、どこで見たんですか?」

「あぁ、こっから西に行ったところにある、エルペトって町さ」

「エルペト、ですか。ありがとうございます」

 

 人気のない場所へ移動し、メルが旅人たちから聞いた話をアウラに伝える。

「おそらく、そのフードの男は、蛇とバインドしているわね。でも、絆の民ではないはず。だって……絆の民は、動物と共に生きることを選んだ人たちだもの。人殺しなんか、絶対にしないわ!」

「アウラが前に言ってた、ベスタが関係してるのかも……」

「ベスタって、誰?」

 フロールが神妙な顔で聞いてくる。

「アタシの家族を殺した、(かたき)よ――」