オオカミか幼なじみか選べない……。

第21話 - てくてくとぴたっ

本多 狼2020/09/13 01:05
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 エルペトまでは、急いでも三日はかかる。頑張って今日中に距離をかせぐ手もある。

 だが、歩き疲れてしまっては、敵が現れたときに戦うことができない。

 メルたちは、はやる気持ちを抑えて、バーレの近くで野宿することにした。

 

「あ~ぁ……お金があれば宿屋に泊まって、ふかふかのベッドで眠れたのになー」

 フロールが不満を漏らす。

「仕方ないよ、お金がないんだからさ」

「でも、アタシとメルで狩りをすれば、こうやって食べ物には困らないでしょ?」

 目の前には、近くの森で捕まえたウサギが料理されている。

 アウラと協力しながら、メルが弓矢でウサギを仕留めたのだ。

 

 自分が動物と共に生きる絆の民と分かってから、メルは、狩りをすることに抵抗を感じるようになった。

 でも、それは違うとアウラは言った。

 

 アタシたちオオカミは、その日必要な分だけの狩りをする。人間や他の生き物もきっとそうだ。

 そして、明日という日へ命をつないでいけることに感謝しながら、大切にその命をいただくのだと。

 

 薬草に詳しいフロールは、食べられたり薬にできたりする植物やキノコを採ってきた。

 味は悪くない。いや、おいしい。

「そうね。私たちピクニックに来たわけじゃない。戦うために旅をするんだもんね。勝手に付いてきたのに、宿屋に泊まりたいだなんて……ごめんなさい」

「フロール、気にしないでよ……そうだ、デザートに昼間買ったクショを食べようよ」

 そう言ってメルは、クショをナイフで三等分し、自分の分をパクッと口に放り込んだ。

「あ、待って、メル!」

 慌ててフロールが止めようとしたが、間に合わなかった。

「皮を食べちゃいけないのに……」

 フロールは、丁寧にアウラの分の皮を取ってあげる。

「ありがとう、フロール。ちなみに、皮を食べるとどうなるのかしら……」

「こうなるの……」

 

 フロールが指差した先で、「クション、クション」という音が鳴り始める。

「とっても甘いけど、クション、くしゃみが、クション、止まらない……ハックション!」

 その後、十分近くメルのくしゃみは続いたのであった。

 

 問題は、そのあとである……。

 フロール、アウラ、メルの順番で、交代しながら見張りをすると決めたまでは良かった。

 だが、アウラが当然のようにメルにくっついて寝るのを、フロールは許せない。

 何も気にせず幸せそうに眠るメルを引きずって、アウラから引き離すフロール。

 気付いたアウラが、てくてくとまたメルのもとへ移動し、ぴたっとくっついて眠る。

 それが繰り返される……。

 

「ア、アウラ……見張りの、時間よ……」

 やがて、交代の時間がやって来た。

 アウラはすくっと立ち上がり、四方に注意を巡らせる。

 フロールは、しばし考えたあと、メルに背中を預けるように横になった。

「もっと、くっついたほうが、いいんじゃない? その向きで、いいのかしら?」

 アウラがわざとらしくゆっくりと言い、フロールを挑発する。

「い、い、いいのよ、今日はこれで……」

 顔を赤らめて、フロールは答える。

 でも、ちょっとだけメルの顔を見てみようかな?

 そう思ってちらっと振り返り、メルの寝顔をのぞいてみる。

 やっぱり恥ずかしい……。

 フロールは、ささっともとの体勢に戻り、目を閉じる。

 アウラは、優しい眼差しでその様子を眺めていた。

 

 翌朝、二人はアウラに起こされた。

 アウラはそのあともずっと、メルに代わることなく見張りをしてくれたのだ。

「ありがとう、アウラ……眠らなくていいの?」

「平気よ。特に変わったことはないわ。朝食を済ませたら、すぐに出発しましょう。ハヤブサの次は、蛇。立て続けにメルの近くに現れたのは、やっぱり嫌な予感がするから……」

「確かに、そうね。だって、ポルテ村で十年以上暮らしてきたのに、何もなかったもの」

 フロールが、右手の人差し指をあごに当てながら言う。

「アタシのせい、なのかも……」

「そんなことないよ、アウラ。さぁ、食べたら急いで出発しよう!」

 

     *

 

 昨日と違い、空はどんよりと曇っていた。

 アウラやフロールには言わなかったが、メルにも嫌な予感があった。

 おそらく、アウラとバインドしていることで、感覚が鋭くなっているのだろう。

 歩きながらメルは、さっきのアウラの言葉を思い返していた。

「アタシのせい、なのかも」

 たとえそうだとしても、僕が助けたいと思ったのは事実だ。

 とにかく、絆の民に関する情報を集めよう。

 そうすれば、すべてはっきりするはずだ。