第5話 - 大きな木の下で
やっと村が見えてきた。あちこちの煙突から煙が出ている。
どの家も、夕食の準備の真っ最中だろう。
「なあ、メル。そいつ……アウラは、村に入れないほうがいい」
オオカミが家畜を襲いに来たと思われるかもしれない。ジンクはそう言っているのだ。
それを察して、メルは言った。
「ごめん、アウラ。長老様との話が終わるまで、ここで待っていて」
アウラは、仕方ないといった感じでうなずいた。
「分かったわ。ここで休んでる」
近くの大きな木の幹に寄りかかるようにして、アウラは丸くなった。
「良かったら、食べて」
メルは、腰に付けたかばんからパンを取り出して、アウラの前にそっと置いた。
「母さんが作ったパン。おいしいから、遠慮しないで食べてね」
パンの匂いを確かめているアウラを見つめるメル。
「じゃあ、行ってくるね」
食べ始めたのを見届けて、メルは笑顔で走り去った。
人間のことをあまりよく知らないまま生きてきたアウラだった。
しかし、今日を共にくぐり抜けたメルの言葉に、体があたたかくなるのを感じて、安心して目を閉じた。