第4話 - ジンク 父のような
「さっきは本当にありがとう、ジンク」
村へ戻る途中、落ち着きを取り戻したメルは改めて礼を言った。
「いいってことよ。なんせお前は、俺の息子みたいなもんだからな」
ジンクは、さっきまでの殺気がまるで嘘のように、にかっと笑った。
「そういやぁ、あの槍男、絆の民とか言ってたな……」
「ジンクは、絆の民のこと、知ってるの?」
「いいや――こういうことは、長老に聞くのが一番だろうな」
メルは、本当の両親を知らない。
十五歳の今まで、ポルテ村のマリーが育ててくれたのだ。
メルにはそれで十分だった。
知りたくないと言えば嘘になる。
しかし、マリーとの、ポルテ村での生活は、とても幸せなものだった。
だから、そんな話を育ての母にしたことはなかった。
ジンクはポルテ村の木こりだ。
優しく力持ちで、メルにとっては、とても頼りになる父のような存在だ。
家が近いため、幼いころからメルのことを気に掛けてくれていた。
あんな怖い顔をしたジンクを見るのは、今日が初めてだった。
歩きながら、メルは今日の不思議な体験をジンクに話した。
初めは怪訝そうな顔をしたが、ジンクはありのままを話すメルを信じてくれた。
アウラが挨拶したものの、ジンクには鳴き声にしか聞こえないらしい。
「そいつと話せるのは、お前だけみたいだな、メル」
そういえば、アウラだけじゃなく、あのハヤブサの言葉も聞こえていたことを、メルは思い出した。
「ここ数年、オオカミはほとんど見かけなくなった」
ジンクは、アウラを見下ろしながら続けた。
「しかも、この森にはこんな種類のオオカミはいない」
確かに、メルが以前見かけたことのあるオオカミは、茶色もしくは灰色に近い色をしていた。
一方、アウラは雪のような美しい白だった。
どこか遠い所から逃げてきたのだろうか?