第1話 - 鉱石の国マバ
この世界には5つの国がある。
北の「パッカヤ国」、東の「アストナル国」、南の島国「覇ノ国」、西の「ローレア諸国」。
そして東西南北4国の中央にあるのが大都市「アテガンナ国」。
僕の出身はローレア諸国の隅にある小さな「マバ」という国で、鉱石などの輸出を主な国益として成り立っている田舎国だ。
そんな田舎国にとうとう、僕は別れを告げる。
泥まみれになって鉱石を掘り続ける毎日なんてたくさんだ!僕は大都市アテガンナで大きな事をするんだ!
具体的に何を成すかはまだ未定…だけど。
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「バカな事言うんじゃないよ!!!!」
罵声とともにグーパンが飛んでくる。
「いだっ!…っ~、何するんだよ!」
「何するかって?バカ息子に現実の厳しさを教えているのさ!!」
そう言って今にも第2発目を繰り出そうとする母を涙目で睨みつける。
「うるさい!僕だってちゃんとした考えがあってのことなんだ!母さんにとやかく言われる筋合いはない」
「考えだって?じゃあその考えとやらをお聞かせ願おうかい」
「アテガンナで大きな事を成すんだ…」
渋々僕は答える。
「大きな事って?」
「うっ…それは、まだ、決まってない」
「はぁぁ~」
呆れたように大きなため息をつかれる。まぁ、仕方ないけど、仕方ないけど!!
「あんたね、ローレア諸国どころか、このマバの国さえ出たこともないくせに…そんな田舎もんがいきなり大都市に行けるわけないだろう」
わかってる、わかってるけど!
……………それを言われるとぐうの音も出ない。
「とにかく、僕はこの国を出て行く。この国だけじゃない、ローレア諸国も飛び出してアテガンナに行くんだ!」
「呆れた子…。世間を知らないってこういうことを言うのね」
母は心底呆れた顔をして晩御飯の用意を始めた。
自分でもわかってる。馬鹿げてるって。
でももううんざりなんだ。朝早くから日が落ちるまで鉱山で価値だってよくわからない石を掘り続ける毎日。
飽き飽きだ、心底嫌気がさす。
僕は変わりたいんだ。
父さんみたいに一生この田舎で石を掘って終わるような人生は嫌だ。変化が欲しい。
なんでもいいから変化が!!
覚悟は決まっている。やりたいことは今のところはないけど、大都市に行けばやりたい事の1つや2つ見つかるはずだ。
「とにかく、僕はここを出て行く。何も一生帰ってこないわけじゃない。だから、お願いだ母さん!分かってよ…」
「私は知らないよ。あんたにはアテガンナで生きて行くのは無理だ。言いたいことはもう言った。あとは好きにしな」
こっちを見向きもしないで淡々と母は言った。
僕がアテガンナでは生きていけないって?母さんは僕を過小評価しすぎなんだ。
僕だって自分のことはよく知っている。出来ること、出来ないことの分別は付いているつもりだ。
「明後日の朝、僕はここを発つつもりだから」
それだけ言って逃げるように自室へと向かう。
言ってしまった…言ってしまった!明後日にはここを発つと、言ってしまった。
僕だって男だ、一度行ったことは取り消さないぞ!何があっても、絶対にだ!!
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その日はあっという間に来た。
正直、心の準備が出来ているかといえば万全ではない。
ドキドキしてソワソワして仕方がない。
ついにこの田舎国から飛び出すんだ!
マバの国だけじゃない、ローレア諸国だってすっ飛ばしていきなりアテガンナへ昇格だ!!
先のことは特に考えてないけど、なんとかなるさ。新しい仕事に就いて、家を借りて可愛い彼女だって作ってみせる!そして、大都市アテガンナで大きなことをして見せるんだ!!
「ロイド!……おいで」
いきなり母に呼ばれて肩が飛び上がる。
「なんだよ母さん、驚かせるなよ」
母は今までで見たことないくらい真剣な顔をして、自分の元へ歩み寄る僕を見つめている。
まぁ、無理はないよな。一人息子が家を出て行くんだから。
「…これを持っていきな」
そう言って母が渡してきたのは何の装飾もない、一本の片手剣だった。
「やだな母さん。マバの国だってローレア諸国だって治安は良いんだよ?いくらアテガンナが大都市だからって、こんな剣を護身に持つほど物騒じゃないよ」
「……馬鹿ね、本当に」
そう言った母は呆れると言うより、とても悲しそうな顔をしていた。
「なんだよ母さん、そんな顔しないで!アテガンナとローレアは隣国だよ?いつでも帰ってくるって!」
いつもは気丈な母も、やはり一人息子が旅立つのは寂しいよな。心配させないためにも、僕が不安な顔をしてちゃダメだ。
「そうね、いつでも帰ってきなさい。逃げ出したって良いの、寂しくなったり辛くなったら直ぐに帰ってきなさい。決して無理はしないで」
「分かったって!全く、母さんは心配性だな」
おどけて話す僕とは対照的に、母は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
なんだよ、普段はそんな顔しないくせに…こっちまで泣きそうになるじゃないか…
「とにかく、僕は大丈夫だから。剣、ありがとね」
母が渡してくれた剣を背に担ぐ。
「それじゃあ、行ってきます!」
相変わらず母は泣きそうな顔のままだけど、僕は笑う。本当は泣きそうだけど、笑うんだ。
笑って、母さんをこれ以上心配させるわけにはいかない。
「行ってらっしゃい、気をつけて」
「行ってきます」
歩き出す。一歩、また一歩。
足取りは軽やかで、今ならどこまでだって歩いていける気がする。
一度振り返る。
母さんは真っ直ぐにこちらを見つめている。
前を向く。もう振り返らない。もう一度振り返ったら決心が揺らいでしまう気がするから。
ドキドキしてソワソワして、期待に胸がいっぱいで一人でに顔が緩む。
だから気づかなかったんだ。
聞こえなかったんだ。
母の声が。
「生きて帰ってきて」
その一言が