第1話 - 第一章 にわか雨
新しい仕事で、地方都市の駅前に分譲マンションを設計する事になった。
現地に行き、敷地や周辺の状況を写真に納め終わった時、突然大粒の雨が降りだして来た。
駅前と言っても、歩いては十分以上かかる。
咄嗟に目に入った商店街に向かって、俺は駈け出していた。
百メートル足らずの距離なのだが、とにかくすごい雨足にパニック状態で、アーケードの軒下に逃げ込んだ。
建築士の端くれの俺にとって、商店街のアーケード程ダサクて都市景観を壊している物はないと思っていたのだが、今度ばかりは本当に感謝した。
このところの連日の忙しさに体力の弱っていた俺は、今カゼをひくわけにはいかないのだ。
背広は濡れたが、髪の方はハンカチでふきとれる程ですんだ。
ホッと一息ついて傘でも買おうかと辺りを見回すと、パチンコ店の隣のガラスケースに目が止まった。
近づいてみるとそこは古ぼけた映画館で、懐かしいポスターが飾ってあった。
どうせ今日は会社に戻らないし、雨宿りを兼ねて俺は切符を買う事にした。
「六百円です。」
自販機ではなく、昔ながらの窓口での切符販売だった。
売り子のおばさんは、切符を半分に千切り、差し出した。
いわゆる「半券」であった。
(今の若い人には死語になっているだろうが)
(随分安いな・・・。ああ、そうか。二番館か、今時珍しいな。そう言えば昔はよくいったなあ。)
売店で缶ビールを買った。
赤い合成の皮が所々破けている重い扉を開けると、足元は真っ暗だった。
ただ、大きなスクリーンにモノトーンの画面がじっくりしたカメラワークで動いている。
昔ながらの映画館であるのか中は広く、座席もたっぷりあった。
平日の昼間であるのでガラガラだった。
俺は中程の席に座り、改めて廻りを見た。
俺と同じ様なサラリーマンが暇潰しなのか数人バラバラに座っている。
シートを四つ程倒して、眠っている者もいる。
前の方に目を移すと、俺の心に急にせつなく甘い想いが込み上げてきた。
一組の若いカップルが、寄り添うように観ている。
「プシュッ」と音をさせ、プルトップを開けると俺はビールを流しこんだ。
想い出と共にゴクゴクと俺の喉を、冷たい液体が駆け抜けていった。
少し苦く、くすぐったい味がした。
その時、十年前の記憶が脳裏に浮かんだ。