Baskadia

教会

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M2020/07/16 08:06
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とある男との突然の出会い、主人公の幼い頃の記憶に隠された秘密。平和だったはずの日常がいつの間にか崩れていく。衝撃のラストが待ち受けるミステリー超短編。

私はクリスチャンだ。


両親と妹もクリスチャンだが、仕事やら学校やらで忙しいと理由をつけ、教会に通うのをサボっている。しかし私は、カトリック系の学校に通っていることもあり、教会に通うのを欠かさない。それに加え、毎朝教会で祈りを捧げてから学校に行く。


ある朝、教会に行きいつもの席に座る。祭壇には14本のロウソク。そういえば、もうすぐクリスマスだ。

聖歌集を開くと、斜め前の席に見慣れない男が座っていた。30代くらいの、痩せた座高の高い男だ。

私が歌い始めると、彼がぴくりと肩を震わせこちらを盗み見るのが視界の端に見えた。知り合いだろうか、と思ったが気にしないそぶりで歌い続ける。一曲歌い終わると、神父様のお話が始まる前に主の祈りを唱え私は席を立った。男は席に座ったままだ。教会を出て歩き始める。学校に着く頃には、男のことなどすっかり忘れていた。



部活を終え、部室でいつものメンバーで喋っていると、窓際に座っていた幸があっ、と小さくつぶやいた。

「どうしたの?」

と尋ねると、

「校門のところに、怪しい人がいる」

「えっ?やばーい、不審者じゃん!!!」

ミーハーな明が甲高い声で叫ぶと、教室にいた他の人達も窓辺に駆け寄る。私も窓の外に目を向けた。

「なにあれ、夏なのにコートとかウケる」

「まだ不審者とは限らなくない?保護者かもしれないじゃん」

「警備員さん帰っちゃったのかなー」

好き勝手に話す周りをよそに、私の目は男に釘付けになっていた。今朝、教会で見たあの男だ。すると男が、ふとこちらを一瞥した。一瞬目が合ったように感じてドキッとしたが、周りに教えようとした時にはすでに男は違う方を向いていた。



学校からの帰り道、私は男について考えていた。何故だろう、あの男について考えていると、何か頭の中に靄のかかった情景が思い浮かぶ。ロウソクのような柔らかい光が広がる部屋、笑い声…しかしそれ以上のことは分からない。私の過去の記憶なのだろうか。


そうこうするうちに家に着いた。すると、家の前に誰かが立っている。私は心臓がびくん、と跳ねたのを感じた。例の男だ。

男がこちらへ近づいてくるが、恐怖で声が出ない。その場から動けずにいると、男は私に向かって何かを差し出した。

「聖歌集…?」

「これ、君のだよね?」

「そうですが…」

「今朝、教会に忘れていったから」

「…ありがとうございます」

聖歌集を忘れていったことに気づかなかったなんて、自分が信じられない。それにしても、どうしてこの男は私の家を知っているのか。確かに聖歌集には名前と学校名が書いてあるが、住所までは書いていない。ストーカー?でも、SNSもやっていないのに、どうして私がこんな目に合わなきゃ…

「君に話さなければいけないことがある。明日の朝も、教会に来てもらえるかな」

「話…?」

「とても大切な話だ。君の今後に関わる」

「はあ」

「それとこのことは、家族には黙っておいてくれ。必ずだ。それじゃ、明日の朝」

そう言い残して、男は去っていった。何なんだろう?スカウト?にしては暗い雰囲気だし…しかし私は、自分の心の中に好奇心と、そして何故か安心感が芽生えるのを感じていた。この人は大丈夫。自分の直感がそう告げていた。



翌朝、教会に行きいつもの席でいつものように聖歌を歌う。男の姿は見当たらない。

やっぱり、嘘だったのかな…あれ?もしかして、私の家族が狙われている?私がいない間に家族を?そして私は…その考えが1度浮かぶと、いてもたっても居られなくなり外に出る。すると男が待っていた。

「わ、私の家族に何かしたんですか!!」

勇気を振り絞ってそう言うと、男は激しく首を横に振り否定した。

「いや、そんなことしないよ。人を殺すなんて性にあわない。そんな人は沢山見てきたけど、僕にはそんなこと出来ない」

「沢山見てきたって、やっぱり、ひ…」

「待ってくれ。違うんだ。これを見てほしい」

男が慌てて写真を渡してきた。その写真を見た瞬間、私の体中に電流が走った。冷や汗が止まらない。写真の中には見慣れない夫婦、そして私がいた。ケーキの上には2本のロウソク。


これは、私の2歳の誕生日の時の写真だ。

言葉が出ない私を他所に、男は話し始めた。

「この時、ケーキにロウソクを差して、火をつけた。そのあときよしこの夜と、誕生日の歌を歌った。そして君はケーキのロウソクで指を火傷した。小指の付け根だ。でも君は、ケーキが食べたいといって泣いた。そして痛い痛いと言いながらもケーキを食べた。」

今まで靄がかかっていた私の記憶に、写真がピタリとはまった。まるでパズルの最後の1ピースをはめたように。

「どうして、知ってるんですか…?」

「やっぱり、そうか。この話は両親から聞いたの?それとも自分の記憶?」

「質問に答えてください。どうして知ってるんですか」

「…ごめんね、それは今は答えられないんだ。ただ、僕は誕生日の前の晩、つまり明日の晩に君を迎えに行く。その時に話すよ」

「どうしてですか?家出しろって言うんですか?」

「君を迎えに行ったあとのことは、迎えに来た時に話す。その時に全て話す。それまで、このことは胸にしまっておいてくれないか。」

「私の家族に何かあるんですか?」

「ああ、そうだ。君は今の家にいてはいけないんだ。」

「意味が分からないです。やっぱり私の家族を…」

「君は、明日までにあの家から逃げなきゃいけないんだ。時間が無い。明日にはきちんと説明する。これ以上の連鎖を止めたい。頼むから、明日まで待ってくれないか」

「…分かりました」

「頼んだよ」

そして男は足早に去っていった。私は、3歳の誕生日のことを思い出していた。誕生日の歌と、クリスマスの夜だからきよしこの夜を歌った。でもそれは3歳の誕生日までだ。それ以降、誕生日にきよしこの夜を歌うことは無かった。どうして歌わないのか家族に聞いても、さあ誕生日の歌を歌いましょうとさえぎられ、歌わせてくれなかった。きよしこの夜を口ずさんでいたら必ず話しかけられて、そのうち歌を忘れた。指の火傷の跡も、何の傷でしょうー?とふざけてクイズを出した。でも、さあ何だったか、記憶にないと言われて、覚えてないなんて変なの、と思った。そのうち本当に何の傷か忘れた。でも、今全てを思い出した。

だが1つだけ思い出せないことがある。2歳の誕生日と、3歳の誕生日までの間に、何かがあったような気がする。



この2日間、部活が手につかなかった。ずっと、2歳の誕生日と3歳の誕生日の間にあった「何か」を思い出そうとしていた。でも、どうしても思い出せない。考えれば考えるほど記憶に靄がかかっていくような気がする。そしていよいよ今日、男は私を迎えに来ると言った。どうやって家の中にいる私を連れ出すのだろうか。学校の行き帰りに来るかと思ったが、来なかった。悩みながら家に帰ると、リビングにはご馳走が並んでいた。

「え?お母さん、誕生日は明日でしょ」

「前夜祭よ。たまにはいいじゃない」

「お姉ちゃん、早く」

「皆待ってたんだぞ」

家族に急かされ、私はいそいそと食卓につく。思う存分食事を楽しんだあと、ケーキも食べた。明日、本当に何かが起こるのだろうか?あの男の妄想、もしくは私を脅しているだけなのではないか?でも、2歳の誕生日の記憶は本物だと思うし…やはり明日、男からの話を聞くしかない。

そのあと自室に戻り、窓の外を見る。男は現れない。夕食中に来たのだろうか。手紙か何かが窓に貼ってあるかも、と思い窓を開けていると猛烈な眠気に襲われた。

本能が告げていた。寝ちゃダメだ、起きろ、私…



身体中か変な感覚に襲われている。腕と足が痛い。ゆっくりを目を開けると、どよめきとざわめきに包まれた。私を拝み、ひざまずく人々で席が埋まっている。目をこすろうとして、ハッとする。腕が縛られている。足も。状況を飲み込むのに暫く頭が真っ白になった。どうして私はこんな所に…?どうして私は十字架に縛られているの…?

ふと前の方を見ると、そこにはどこか見慣れた風景があった。ここは教会だ。でもいつもと違う。壁中に貼られた私の写真。誕生日の時の写真が貼られている。そして1年ごとにロウソクが1本ずつ置かれている。見覚えのあるロウソクの柄。でも頭がぼーっとしてあまり働かない。

写真と交互に貼られた「羊様」と書かれた紙。達筆だなあ、と全く関係ない感想が頭に浮かんだ。そして正面を向くと、そこには赤い文字で「YOU」と書かれた垂れ幕がされていた。

すると下の祭壇で誰かが話し始めた。教会が一気に静まり返る。

「今日は、この神聖なる日にお集まりいただき、ありがとうございます。13年ぶりですね。皆様、お変わりないでしょうか。それではこの神聖なる儀式を始める前に、お伝えしなければならないことがあります。本来は生贄は1人ですが、もう1人、生贄になるべくして現れたお方がいます。その方にも感謝致しましょう。では、羊様の聖なる力を信じて」

私は悟った。

「私の名前は羊、つまり生贄…」

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