第17話 - 絶望の地平線:2
家族3人、支え合って暮らしていた、貧しいながらも優しい家族。
異常に気づいたのは、隣で眠って居たはずの妹のうめき声が聞こえた時。
ディアンは慌てて母親を起こそうする。ミーシャがいない。ミーシャがいないよ、母さん。
しかし何度揺すっても母親は起きず、決して行ってはならないと口すっぱく言われている深夜のテント街に繰り出そうか、悩みはじめたとき、後頭部に衝撃が走った。
硬いもので殴られたことだけはわかった。朦朧とする意識の中、最後に見た母親の肩が震えていたことをよく覚えている。
「凍った石を齧って、とにかく闇雲に歩いて、僕たちは後に特区と呼ばれるようになる地域に踏み込んでしまった。地平線の果てまで真っ平らの大地を、一週間飲まず食わずで、崩落の淵を必死に避けて歩いて限界だった僕たちの足元が小さく振動して、沈み込んだ。一週間一緒に過ごした10人の子供を見捨てて、妹の手を握って真っ先に走り出した僕は・・・肺が震えるような轟音と、それが止まった時に背後に突如開いていた大穴を見た。」
「・・・っ。」
崩落を世界の危機だと、きちんと捉えられている貴重な人間。
かつてタイタンはディアンをそう評価した。
その理由がこれほど残酷なものだなんて知らなかった。
彼の黒曜が淀んでいる理由も、ここまでのものだなんて知らなかったのだ。
「そしてしばらく後に妹が飢えて死んだ。僕は・・・妹の死体を食べた。美味かった。今思い出すだけで気が狂いそうになるけれど、あの時は、血も抜いていない生き物の肉が、本当に美味かった。」
ディアンの蕩けるような真っ赤な唇が視界にちらついて目眩がする。
「何年も一緒に暮らして、毎日隣で眠って、将来は母さんのために権力あるハンターになると言っていたミーシャの舌を齧った。」
がり、がり、がり。
「ミーシャのきらきらの黒い瞳を咀嚼した。」
苛ついたように、木のテーブルを、爪で削る。
「将来好きな人ができて、可愛い子を宿すはずだったミーシャの子宮を啜った。」
がりがりがりがりがりがりがりがり
「そうしないと生きられなかった、だからこれは懺悔でもなんでもない、ただの事実だ。」
「タイタン、タイタン・・・ッ!」
ひゅう、ひゅうと音を立てていたのはタイタンの喉だった。
呆然としているタイタンの胸に、いつの間にか温かくて柔らかいものが乗っていた。
隣に座っていたタイタンの胸に、恐怖に震える銀色が縋り付いていた。
真っ青な顔色。凍えて細かく震える肩。自分は彼女を助けてあげなくてはいけない。
しかし安心しろと背中を撫でた手も震えていて、これではあまりに説得力がない。
「怯えさせるのはわかっていたんだけど、ごめん。」
「ちがうの、ちがうの。だって、こんなこと、あっていいわけがないじゃない!貴方達は何にも悪くないのに、なんでこんなことが起きてしまうの・・・。」
タイタンはセレナをなだめるために、指先を動かすのが精一杯だった。
体を硬直させるのは、ディアンへの恐怖と、それを抱いてしまう凄まじい自己嫌悪。
彼は芯のある人間だ。世界を救いたいと、心のままをタイタンにさらけ出した彼のことをタイタンはそれなりに認めていたし、信頼していたのだ。
それなのに、彼の過去を聞き、タイタンはディアンを僅かに嫌悪してしまった。
彼の黒猫のような柔い髪の毛が、唇が、深爪気味の指先が、彼の妹の血肉で構成されていることを知り、そのあまりの背徳にタイタンは怯えた。
かつて共に戦場を乗り越えた戦友に、そんな感情を抱いてしまう自分は、なんと薄情なのだと自分を嫌悪した。
「ただの事実だよ、このお話は。だからそんなに、僕のことを心に入れようとしなくていい。悪かった、怖がらせて。」
ディアンはそう言ってタイタンの方に目をやった。お前なら割り切って聞いてくれるだろう、という信頼がそこにあった。
悪いがその信頼には応えられそうにない。
ディアンを傷つけることを分かりながら、ディアンから目を逸らす。しばし黙った後、ディアンはなんでもないように話を続けた。
「・・・そして保護されて、気づいた。以前使えていた魔道が、全く使えなくなっていた。いつも通り魔道を使おうとすると、自分の姿が文字どおりに希薄になる。あの事件のせいで、僕の魔道は変質した。あの事件が僕の世界を塗り替えた。僕が持っていた大切なものを、塗り替えられたんだよ・・・なあ、セレナ?」
どうしてそこでセレナさんに話が向くのだ。急に矢面に立たされたといった態度ではない、まるで既に処刑台に立つ覚悟は決めていたとばかりに、セレナはタイタンの服に顔を擦り付け、震える体を離した。
「・・・タイタン、以前、魔道のお話はしたわよね。魔道にとって、大切なもののお話。」
彼女の赤い目には気づかない振りをして、平素を装いタイタンは会話を続ける努力をする。
「魔道の個性は・・・その人が世界をどう捉えるかによって生まれる、だろう。」
「・・・もし、その人の世界が変質するほどの何かが起きてしまったら?」
タイタンは想像する。
家族3人、貧しいながら支え合って暮らしていた。
優しかったはずの母親に裏切られた。
大切な妹は自分の胃に落ちて溶けて死んだ。
泣き叫ぶ子供を見捨てた。
たった1人、絶望的に何もない地平線だけを見つめて、3週間、自分以外の命を犠牲にし続けて、ディアンはやっと息をすることを許された。
それはディアンにとって、世界を塗り替えるほどの絶望であったのだ。
「魔道は、変質するのか・・・!その人の世界が塗り替えられた時、同時にその人の魔道も、変質する・・・!?」
「そうだ。具体例が少なすぎるせいで、学術的に証明されているわけではないけれど・・・自分のことだ、僕にはわかる。僕の魔道は、あの事件のせいで変質した。そして多分今、セレナも同じ経験をしている。」
驚いてセレナを見れば、彼女は気まずそうにカップの淵に唇を押し当てていた。
「・・・タイタンに言わないでほしかったのだけれど。」
「必要なことだから。・・・君はもうとっくに自分で気づいていたんだよね?」
ディアンは、初めてセレナとタイタンに批判的な目を向けた。
ゆっくりと、舐めつけるように、セレナを、そしてタイタンを見回し、口を開いた。
「僕は君を利用したい。僕は以前の、事件以前の魔道を取り戻したい。魔道を振るうたびに苦い気持ちが押し寄せる、こんなのはもううんざりだ。僕は僕の過去を完璧に拭い去ってみせる。」
「魔道を、取り戻す?」
「一度やったことだ、不可能じゃないだろう。僕の世界をもう一度塗り替えればいいんだから。・・・まあ口で言うほど簡単じゃないけれど。きちんと理論を組み立てて、実験を重ねて、条件を整える必要がある。教科書もなく魔道の新しい領域に挑むんだ、簡単じゃないけれど・・・僕以外の実例を見つけた今、それはもう机上の空論じゃない。」
実例。
ディアンはまっすぐ、俯いたままのセレナを見ていた。
「この間、一時的にセレナと繋がってわかった。セレナの中には2つの魔道がある。君の振るう残虐な攻撃魔道と別の、何か得体の知れない魔道が、セレナの中に細く渦巻いている。セレナの魔道は今変化を始めている。その変化を研究できれば、僕はきっと以前の魔道を取り戻せる。その為に僕は、世界を今一度塗り替えるために過去の事件現場である特区の情報が欲しいし、初めて見つけた僕以外の成功例であるセレナを観察したい。それが僕がお前たちに協力したい理由の1つ。・・・もうひとつは・・・お前なら分かっているだろう、英雄。」
あの夜の、ディアンの叫びを思い出す。
彼の魂が叫んだ、悲嘆、絶望、希望を。
自分はもっと素晴らしい人間だったはずなんだ、と。
あの後、ディアンがハンター協会に帰ってタイタンを裏切る可能性はもちろんあった。
それでも、ディアンを生きてこの森から帰したのは、彼を信じたのは、勿論、彼があの時みっともなく全てをさらけ出してタイタンに縋ったからだ。
タイタンは彼の覚悟を知っている。
なら、タイタンの答えなど決まっていた。世界を救うことに同意してくれた彼が、過去を拭いたいと願うなら、それに力を貸してやりたい。
「分かった。俺はそれで構わない。魔道に長けたあんたが仲間になってくれるなら、心強い。」
「セレナは?」
2つの視線に串刺しにされ、セレナもさすがに無言を貫くのが苦しい。
「というか、セレナさん。今の話を聞いた限り、なんで魔道の変質を隠したがるのか分からない。・・・あんた、今何を考えてる?」
「・・・別に、大したことじゃないわよ。私も、いいわ。よろしくね、ディアン。」
「だとさ。改めて今後ともよろしく頼む、ディアン。」
彼女はぐっと、尖った何かを飲み込んだようだった。
ディアンは先ほどの批判的な目をタイタンに向けていたが、タイタンはそれを無視してお茶のおかわりを作る為立ち上がった。
今晩は泊めてほしいというディアンをどこに寝かせるのか、決めるだけで随分と時間がかかってしまった。
自分は作業場の床でいいから自分の部屋で寝ろと、大変なことを言い出したセレナをタイタンが全力で止め、客人なのだからと簡易ベッドをディアンが希望すると今度はセレナがゴネる。
「作業場は散らかっているのだから駄目よ!プライバシーというものがあるでしょう!?」
何かが根本的に間違っている。
結局、作業場を使わなければ良いのだろうと、比較的広いタイタンの部屋に簡易ベッドを運ぶということで決着がついた。
この時点ですでに1時間ほど経過していたというのに、少々大変なことになってしまった夕飯のせいで、風呂上がりのタイタンはかなりぐったりとしている。
「・・・土産は有難いが、この家にもう酒は持ち込むなよ、頼む。」
「セレナは喜んでただろ?いいじゃないか、あのくらい。」
夕飯の席でディアンがカバンから持ち出したのは、ウイスキーの瓶。
保護区では嗜好品としてこっそり流通しているらしいそれは、ウイスキーというにはアルコール臭がきつく、雑味も多い、ただ酔うためだけの酒。
過去の時代のウイスキーの旨さを知っているタイタンにとってはあまり美味しいものではなかったが、なかなかアルコールなど飲めないこの森への土産のチョイスとしては最高と言っていい。
お酒なんて久しぶりだと目を輝かせたセレナは、そこそこ酒に強いタイタンですらぎょっとするほどのハイペースでウイスキーをかっ食らい、酔いつぶれて今は自室で爆睡している。
「そこまで強くないなら自制して飲めばいいのに、まったく。平素でも面倒なのに酒に酔うと本当にタチが悪い・・・。」
「今度尻尾触らせてあげなよ。・・・っ、ふふ。タイタンが可愛い、可愛い、って。保護区の英雄も惚れた女の前では形無しだ。」
ディアンを本気で睨みつける。今なら視線だけで人を殺せそうだ。
「酒飲んでるときくらい顰めっ面はやめなよタイタン。男には僕みたいな可愛さも必要だよ。」
きっかけはディアンのいつも通りの軽口。しかしそれに全力で反論をし始めたのはすっかり酔っ払って出来上がったセレナ。
「何を言っているの!?タイタンの可愛さが貴方には分からないの!?」
なんと酔っ払ったセレナは、ディアンに年下のタイタンがどれだけ可愛いかを力説し始めたのだ。
素直じゃないのが可愛いだの、セレナを怒鳴った後にちょっと気にしているのが可愛いだの、好きなものが夕食に出ると口角が上がっているだの、ふわふわの尾が可愛いだの、今もちょっと照れているだろう可愛いだろうと指を指され。
セレナの聡明さを恨んだのは人生で二度目だ。
あの人は本当に人を見る目がある。死んでほしい。
挙げ句の果てに尻尾を触らせろ今すぐ怒って尾を出せと無理難題を押し付けられ、爆笑するディアンを窓から放り投げて鍵を閉めるなどの一悶着があり。
正直、地獄だった。明日素面に戻った時にディアンの顔を見られる気がしない。
「黙れ。忘れろ。とにかく二度と酒は持ち込むな。味を占めて自分で作るとか言い出しかねないんだよ、あの人は!」
毎晩のように泥酔したセレナに絡まれて揶揄われ続けたら、タイタンでも流石に引越しを考えるかも知れない。倦怠感の残る体をベッドに横たえると、どっと眠気が押し寄せた。
気持ちは辛いが、疲れと酔いでこのまま気持ちよく眠れそうだ。
明かりを落とすようにディアンに頼むと、ディアンは何を言っているのだと、タイタンにクッションを投げつけた。
「痛い。」
「起きろ。やっとセレナが居ない場所で話せるんだから。・・・計画はどうなってる?あの夜のことをセレナにはどこまで伝えた?」
「・・・渡しもののことと、狼の正体、セレナさんが計画の重要人物であること以外は全て伝えた。下手に隠して勘ぐられる方が面倒だ、あの人を相手に隠し事をするのは骨が折れる。」
「狼の正体?」
そういえばあれはタイタンの記憶に流れ込んできた情報だったか。ディアンは狼が口頭で話した情報以外は知らないのだ。
「セレナさんが、昔子狼を助けたと言っていた。その狼に、セレナさんのお母様が改造を施して魔道の力を与えたのがあの狼だと見て間違いないと思う。・・・大切な狼を改造したと知ったらセレナさんは間違いなく怒るから、隠しておくように言われた。」
「言われたって、誰に。」
「誰にって・・・ああ、そうか。狼に渡された、渡しものというのは、おそらく過去の記憶だ。崩落以前の世界の人間の記憶をいくつか渡されて・・・その中に例外的に狼自身の記憶が混ざっていた。セレナさんが怒ると言うのは、狼の記憶の中でお母様が言っていたことなんだ。・・・共有していない情報はこれくらいだと思う。」
ディアンはそれには返事をせず、考え込んだ。
まるで自分の事のように言うのだな、と。
そんなことは露知らず。タイタンは無音の空間だと流石に眠くなるな、などと呑気に考えていた。
タイタンは枕元の水差しからカップに温い水を注ぎ、一気に飲み下す。
そこでようやく体を起こし、ディアンに正面から向き合った。
「・・・難しい顔だな。」
「・・・セレナに来たるべき時が来たら、渡しものを渡す。僕はその来たるべき時というのが、彼女の魔道の変質の時だと考えている。」
「そんなにはっきりしたものなのか?セレナさんのお母様は、セレナさんが立派な魔道使いになったら、と言っていた。単純に彼女の魔道の実力が上がったら、ということじゃないのか?」
水を寄越せ、と。ディアンは渡された水差しから直接水を煽った。
正直衛生的に許したくない暴挙だが、彼もまだ酔っているということで許してやることにする。
いつもより据わった目がじっとタイタンを見つめ、小さな唇からぽつりと言葉が零れた。
「・・・あの悲痛な魔道が、世界を救うもんか。」
明るいところで見ると、整った顔立ちだ。いつも隈があって疲れた顔をしているが、それがなければ大層女性にモテるであろうな、とタイタンはぼんやり思った。
彼の暗い瞳は、きっと今、セレナを哀れんでいる。
「自分にとって嫌な思い出で構成された魔道を振るうのは、存外苦痛なものなんだよ。きっとあの子もそうだと思う。セレナの魔道が変わり始めたのがお前のおかげなら、これほど素晴らしいことはない。・・・お前の片思いかと思っていたけど、随分彼女に懐かれているみたいじゃないか。」
ディアンはセレナの過去のことなど1つも知らない。それでも彼女の魔道を見て何かを感じ取ってしまった。
彼女の魔道は痛烈で、悲痛だ。彼女の悲鳴のような魔道の中に差し込む、光明のような魔道が彼女を満たしたら・・・きっとセレナはもっと幸せになれるのではないかとディアンは思う。それなのに。
「・・・どうだかな。あの人は隠し事ばかりだ。今日だって・・・魔道の変質のことを分かっていて、それは決してセレナさんにとって悪いことには思えないのに、伏せたがった理由は、なんなんだ・・・?」
思うことはタイタンだって同じだ。彼女は自分の魔道を嫌っているのではなかったか。
自分を牢に繋いだ鎖、自分を拷問した槍。
それだけが世界の全てだった故に形作られた魔道が失われつつあるということは、きっとお母様やタイタンとの暖かい思い出が彼女を満たしつつある証拠であるに違いないのに。
それをまるで、悍ましいことのように彼女が隠したがる理由がわからない。
「僕が帰った後にうまく聞き出せ。」
「無理だ。そこには俺でも踏み込めない。」
まただ。またディアンの瞳が批判的な色を帯びた。
「仲がいいのか悪いのかよく分からないよ、お前ら。」
「何でもかんでも、心の全てを打ち明けることが信頼であると俺は思わないよ。」
「ただ仲良しをやるならそれでもいいだろうけど。お前はこれから計画のためにセレナを利用するんだから。やり方が生温すぎじゃないのか。彼女からありとあらゆる情報を引き出す覚悟がなければ、きっと世界は救えないよ、タイタン。」
ディアンもとうとう怠そうにベッドに横たわった。
彼を見ずとも、利用という言葉に、タイタンが不快になるのが目に見えていた。
タイタンの目に、ぼさぼさの柔らかそうな黒髪がゆったり流れて枕に落ちるのが、まるでスローモーションのように緩慢に映る。
「・・・今のところはこれでいい。こっちも隠し事がある以上、尻尾を掴まれたら逆にこっちがボロを出すことになる。この間も勘ぐられて・・・正直既にかなり怪しまれているが、俺がセレナさんの事情に踏み込まないという暗黙の了解で向こうも目を逸らしてくれているんだ。こっちがそれを破棄した瞬間計画が崩れ去る。・・・ディアンも慎重に頼む。感情的になってセレナさんを焚きつけたら終わりだ。あの人は何かと面倒臭いが馬鹿じゃないし、ああ見えて聡明だ。」
意外とそうでもなかった。今更言われなくてもタイタンは分かっているらしい。
そういう辺りが本当に信用できる男だ。人情とストイックを両立させている人間は、好ましい。
「分かった、今はそれでいいよ、今は。」
面倒臭いのはタイタンもだろ、という言葉は欠伸になって部屋へと溶けた。
「とにかく今後は森の探索を進めて・・・ひとまずの目標は危険な森の西方の探索だ。お母様の作った罠が山ほどある場所らしいが、だからこそ計画について何かが掴めるかも知れない。あんたは来るか?」
「・・・いい。次に来られるのがいつになるか分からないし、必要なら呼べなんて無責任なことも言えない。明後日からは南にできた新しい崩落の調査に行くし、そこから仕事も立て込んでてさ。全く、結界外調査隊にもっと人員を回せっての、内地でぬくぬくしやがって・・・」
ディアンの声がもにゃもにゃし始めた。こう眠そうなのを見ていると、本当に子供のようだ。
いや。小柄なだけでなく、まじまじと顔を見れば結構幼い印象を受ける。
結局彼は何歳なのだろう?酒は当たり前に飲んでいたが。
まあ、年齢不詳は自分も同じか、と。
諦めてタイタンは部屋の明かりを落とし、布団に身を沈めた。