第10話 - その男は相手にする人物が悪い。
というわけで早速戦うわけなんだが、様子見のせいか武器を持たずに素手で戦おうとしている。
よく言えば優しい。悪く言えば…舐められてる?いくら悪魔憑きとはいえ素手はきついだろう…素手は…。
そしてこちらは先ほどの剣を使うことにした。
「おいで。」
全力で振りかぶり、叩き割る勢いで剣を振った。並みの人間では止められないであろう。
ーーなのに気づけば自分は宙を舞っていた。
えっ?
はっきりゆっくり見えていた。一回転して背中向きに落とされた。
「…ふむ。それじゃあ当たらないよ…?」
どうやったんだと聞くと、ことは単純だった。まず手首を抑えられ、そのまま軽やかにお腹から持ち上げられ、最後に足の方を押され背中から落ちただけだったのだ。
戦っている様子を見ていたのか、呆れた顔をしてクレーエがやってきた。
「ユキヨシは…武器、向いてないんじゃね?」
「ん〜〜!!じゃーどうすればいいのさ〜!」
「その能力は血を使うんだ。つまりは血の性能とかを上げることができる。簡単に言えば体内中を血が巡ってるんだから身体能力の向上も狙えるってわけだ。」
「え、そんなことができるの…?」
「おう。もちろん」
……いつもいつもなんで先に言わないんだよぉぉぉぉ!!
これには栗原も…なるほどねと感心していた様子だった。
それからというもの僕は身体中に血が巡るイメージをかかさず行い、力の欲しい部分に留めるというイメトレを続けるようにした。
最初はイメージがヘタクソだったのか、手が大きく人の顔くらい膨れ上がったり、足はダイコン4本を束ねたような大きさになったりと大変だった。…段々と上手くいくようになったころ、栗原を訪ねた。
もう一回戦ってもらうのだ。ちょっぴり怖いけど…。快く了承を得ると、今回は自分の丈ほどある刀を生み出し、万全な状態で戦うようだ…。
「いやあのイメトレやって一週間経ってないんですけども。」
「どれくらい強くなったかな…フフフ…」
「いや、何回も言うようだけど、まだ、一週間経って、ないから」
鋭くツッコミを入れた瞬間、全身に力を入れ、背後から近づいた。もちろんまだ手足は大きいままだが、確実に小さくなってきている。それくらいには力の成長を実感していたつもりだった。
…つもりだった。
掴もうとした刹那、影はフッと消え、峰打ちで側面から攻撃を喰らった。
痛い!めっちゃ痛い!全身を固めているとはいえ、めちゃめちゃ本気で殴ってきてるやん!
そのまま木にぶつかった。戦意喪失。
「栗原…ギブ…ちなみになんだけど…体育は得意なの…?」
「あー…うん…まぁね。握力は150kg、反復横跳びは測定ミス、1500m走は2分…」
後に彼はそう答えたそうな。