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翌日、また奴はきた。

「なーなえ」

 陽気な雰囲気を醸しながら、俺を呼ぶ。俺は掛け布団をかぶって、聞こえないフリをした。

「奈々絵!!」

 掛け布団を俺からとって、奴は満足そうに笑った。

「寒い。あと、奈々絵って呼ぶな」

 不満げに俺は言う。

 今は春、四月だ。そんな季節に布団なしで寝っ転がるなんて寒い。

 携帯も持ってないから、こんなとこじゃ寝ることでしか時間を潰せないのに。

「やっと返事したな?」

 奴は口角を上げて、満足そうに言った。

「うざい」

 毒を吐く。

「で? 奈々絵が嫌ならなんて呼べばいいんだよ?」

 傷ついた素振りも見せずに、奴は笑う。

「……なえ」

 小さな声で言った。

「それ却下。だって、なえってない、ねえ、なえからきてるだろ。あづもそう思うっしょ?」

 病室のドアにもたれかかっている男が言う。茶色い髪をした垂れ目の男だ。――俺の自殺を止めたもう一人の男。

 足音が聞こえなかった。青髪の奴――あづと話してたから聞こえなかったのか。

「んー、言われてみれば?」

 あづって、察するの下手なんだな。頭が回らない。

 いま同意しとけば、俺のこと名前で呼べたかもしれないのに。まぁ意地でも呼ばせないが。

「とにかく、俺はなえじゃねぇと返事しねえ」

「あーはいはい。わかったよなえ」

 茶髪の男が雑に俺をあしらう。

「潤雑だなー」

「いつも適当な奴に言われたくねぇよ」

 潤は不満げに言う。

「なっ?」

「フッ、冗談」

 頬を赤くしたあづをみて、潤は満足そうに笑った。

 ……仲良いんだな。別に羨ましくないけど。

「なえさ、なんで自殺なんてしたんだよ?」

 あづが首を傾げる。

「……どうでもいいだろ。そんなの」

 何もかも教える義理はない。

 命の恩人だから教える義務なんてない。それになにより、嫌なんだ。いじめや家族のことを話すの

は。思い出すのが辛すぎるから。

「よくねぇよ。気になる」

「……いいから、早く帰れ」

 それで忘れてくれ、俺のことなんか。頼むから、もう二度と来ないでくれ……。 

「嫌だね。お前が話してくれるまで、ここにいる」

にやっと口角を上げて、あづは笑う。