第11話 - ××たい。10
「あんたは死んだら幸せなのか? あんたは死ねたら喜ぶのか?」
俺の胸倉を左腕で掴んで、男は叫んだ。
その腕を掴んで、俺は叫び返そうとする。
「……ああ、そうだよ! 俺は生かせなんて頼んでない?]
だが、間ができた。けれど、その理由は考えないことにした。
自分は殺されなきゃいけない。――それ以外は許されないのだから。
「……お前、死にたいなんて思ってないだろ」
予想外の言葉に目を見開く。
――死にたいと思ってないだって?
「お前を助けた時一緒にいた男いんだろ。そいつが言ってた。4階以上だと、死亡率が50パーセント以上だって。本当に死にたいなら、そうするんじゃないのか」
「……あそこは足場が悪いから、4階以上じゃないけど平気だと思っただけだ」
声が小さくなった。何でかはよくわからない。
「じゃあわざわざ俺達の目の前に落ちたのは? 反対側でもなんなら隣のビルのもっと上の階でもよかったよな。その方が死ねた」
「それは……」
探すのがめんどくさかったから、あそこにした。そのハズだった。実際めんどくさいと本気で思ってたハズなんだ。けれど、何故かそう言おうと思っても、声が出なかった。
矛盾している。
死に場所を探すのがめんどくさいから、死ぬのもめんどくさいのではなく、死にたいのに探すのはめんどくさいなんて。
心の底から死にたいと思ってるなら、もっと確実に死ぬ場所を選ぶことだってできたのに。それなのに、俺はそうしようとしなかった。
めんどくさいとかではなく、たぶんまだ心のどこかで生きたいと思っていたから。
「――目の前で死ねば、助けてくれると思ったんじゃないのか」