第6話 - ノドカ視点05
そこから10分ほど歩いたところに、その家はあった。
中規模の川が傍を流れていて、川に設置した水車と水車小屋がある。そこから水を引いてきて暮らしているのだろうか。水車小屋の数メートル隣に、木造の二階建ての家屋があった。
先ほどの湿地帯からここに歩いてたどり着けたのは、足跡があったお陰だった。
しかし、それは恐らく人間の足跡ではない。
昔博物館で見た、恐竜の足跡に似ていた。
爪が三つついた、爬虫類系統のような生き物を連想させるその足跡は、しかし二足歩行のようだった。
二足歩行の爬虫類というと昔流行ったらしいエリマキトカゲとかそういうものしか想像出来ないのだけれど、たぶん違う。
エリマキトカゲのように走っていた様子もなく、安定して二足歩行で確実に歩いている。
足跡の深さから言ってたぶん間違ってはいない。
二足歩行で、安定して歩いている爬虫類系なんて、そんなのまるで怪獣ではないか。
襲われることも覚悟の上で、けれど休める場所がある可能性も捨てきれず、私はその足跡を辿ってここに着いた。
辺りに生き物が潜んでいる気配はないが、例の二階建ての木造家屋は生活感が出ていた。
家の前に設置された、物干し竿。家の軒下に整頓されて置かれたバケツや桶。
人間の道具のようだが、先ほどの足跡のことを考えると二足型爬虫類が生活している拠点という可能性もある。
元々あまりファンタジーは好まず、現実的な内容の本や映像作品ばかり見てきたところがあるので、正直なところ私は二足歩行の爬虫類なんて信じてはいない。
物証から出たただの仮説にすぎないと思っている節がある。
けれど、日本でこんなに広すぎる森、そして湿地帯なんて、富士山の麓の青木ケ原くらいか。
樹海とも呼ばれるあの場所は、よく自殺の名所なんて言われているけれど、この森にそんな暗いイメージはない。
それに、東京にいたはずの私がどうして山梨の樹海まで飛んできたのかと。
樹海に二足歩行出来る爬虫類型の生物がいるなんていう都市伝説も聞いたことがないし、まず青木ケ原樹海には家屋は存在しないはずだ。
キャンプ場だか何かの建物はあるらしいが、私の目の前にあるような明らかに居住を目的としている建物には該当しないと思う。
ということは、恐らくここは青木ケ原ではなく、そもそも日本ですらない可能性が高い。
死後の世界、黄泉の国とでも呼べばいいのか。
2時間以上この世界にいて、もうすでに私の死については諦めと心の整理がついた。
もうここに来てしまったことについては仕方がないとするしかない。
普通に人が住んでいるという可能性に賭けて、私はその木造家屋の扉をノックしたのだった。