
くすぐるようなシャワーの音で目を覚ますと
足元に保護したばかりの猫が寝転がっていた
薄目のままその景色を眺めてみる
猫は寝返りを打ってぼくを見た 目が合った
シャワーを終えた妻が布団に入ってくる間
ぼくと猫の間には同じ掛け布団に包まれているような
同じ世界を生きているという
具体的なぬくもりのある空気が流れていた
妻が着替えを済ませて電気を消していく
リビングの窓辺に月明かりが薄く灯る
氷のようなガラスの向こう側に夜があった
星がきらめいているかは分からない
ぼくはもう眠たくて仕方なかった
猫は眠れているのだろうか
妻はスマホを眺めてゴロゴロしている
その隣にいる娘が口をチュパチュパ鳴らしている
夢かもしれない
ぼくはきっと夢を生きている
失いかけた現実の片手に 右手に
棄てられた人生の残り香がかすかにする
死んだ人の夢 この世にいない人の夢
明日は娘の好きな唐揚げでも作ろうか
ぼくは猫の頭を撫でようか悩んでから
夜の懐に深く潜り込んでいった
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