第57話 - 第五十七話 最後の戦い
ロケットは一旦、地球の軌道上に乗る事となる。ゾムビーの親玉を見つけるまでの時間、無暗に動くのは頭のいい判断とは言えないからである。ロケットに乗った4人は、親玉の声がしないか、辛抱強く待つ。と、ここで身体がhunter.N州支部の宇宙通信所に連絡をとる。
『こちらロケット内、ヤツの声は聞こえていない。そちらに声は届いているか?』
『……こちら宇宙通信所、親玉の声はこちらにも届いていない。! これは……!!』
『どうした?』
『こちら宇宙通信所、ロケットの進行方向よりおぞましい雰囲気をした球体を発見した』
『! 以前確認された、ゾムビーの巣の様なものか?』
『以前確認されたモノと同様のモノだ。時速30キロでロケットへ進行中。念の為、不測の事態に備える様に!』
『ラジャー』
「隊長、どうしたのですか?」
主人公が身体に問う。
「ああ、以前出くわした球体が、こちらへ向けて進行してきている。ある程度の距離になったら、ツトム、お前が石を持ってロケット外へ出て行ってくれ」
「分かりました。酸素ボンベの準備をお願いします」
主人公に酸素ボンベが装着させられる。装着するのは身体である。過去に経験があるのか、手慣れた手つきでそれは装着させられた。
「隊長ォオオ! あれをォオオ!」
逃隠が叫ぶ。
「どうした? サケル……!」
「!!」
身体、主人公は確認した。コックピットから確かに見える、紫色の球体を――。
「ツトム、心の準備はいいか?」
「……はい」
主人公は内部ハッチがある場所へ向かった。そこに辿り着くと、内部ハッチを開け、外部ハッチを確認した。次に内部ハッチを閉める。フーと大きく溜め息をつく主人公。目をキッとさせる。
(これが最後……これさえ終われば……皆を助けられる……!)
外部ハッチに手をやる主人公。
「……行くぞ」
外部ハッチから宇宙へ出て行く主人公。手には十数個のあの石が。宇宙へ出ると、80メートルほど先に、紫色の球体が存在していた。
「あれだ……以前スマシさんと見たコトがある」
そう主人公が呟いた矢先――、
バコッという音と共に、貨物庫から袋詰めされたゾムビーが球体へ向けて放り出された。
「! そういえばゾムビーも宇宙へ還すんだったっけ。こういう方法なんだね……」
「聞こえるか、ツトム」
「!」
トランシーバーから身体の声が聞こえてきた。
「隊長……」
「もし、万が一だが、相手が攻撃してきたら、グングニルで応戦するんだ。容赦は要らない、向こうがウソをついた事になるんだからな」
「はは……そうですね、でもそうならないように願ってます」
「くれぐれも気を付ける様に!」
「……はい」
静かに言う主人公はリジェクトを使い、球体に近付いて行った。30メートルほど進んだだろうか? 球体はこちらに気付き、速度を下げていく。途中、貨物庫から放り出されたゾムビーを、袋ごと球体が取り込んでいった。不気味さを肌で感じながら、主人公は進んで行く。遂には2、3メートルくらいまで球体に近付いた。そこで主人公と球体は進むのを止めた。
「い……居るのか? ゾムビーの……親玉……」
先に口を開いたのは主人公だった。その数秒後、
「パカァ……」
半径数十メートルはあろう球体は不気味な音を立てながら開いていった。その中は――、
「ゾゾォ……」
「ゾムゥ」
「ゾゾ……」
ゾムビーで溢れかえっていた。その中心に――、
『ヤア……ヨクゾ来テクレタナ』
ゾムビーの親玉が存在していた。
「石を還しに来た! 近くに来てくれ」
主人公は強く言う。
『分カッテイル。今、行ク』
すーっと幽霊の様に親玉は近付いて来た。10秒もしないうちに、親玉は主人公の手が届く場所まで近くへ来ていた。親玉の“声”はロケット内の身体達にも届いていた。
(ツトム……)
(だい……)
身体や逃隠は祈るような思いで戦況を見つめていた。親玉は主人公に手を差し伸べる。
『サア』
コクリと頷いて主人公は右手にあった十数個の“石”を差し出した。そのまま親玉の手のひらに石を渡す主人公。
『ソウダ……ソレデイイ。サア、我ガ同胞達ヨ、我等ガ住処ヘ、還ロウゾ……!』
両手を広げるゾムビーの親玉。主人公は不意に、謎の気配を感じ、地球を見る。地球の数カ所から、紫色の光がゾムビーの親玉目掛けて差し込んでいた。そして――、
ブワッとそこからゾムビー達が親玉目掛けて引き寄せられていった。
「ゾゾ……」
「ゾム……」
「ゾゾォ……」
「! 何を……!?」
動揺する主人公。
「ゾゾ……」
「ゾム……」
次々とゾムビー達は地上から引き寄せられていく。
「今、何をした!?」
主人公は親玉に問う。親玉は淡々と答えた。
「ナアニ、石ノ力デ同胞達地上カラ宇宙ヘ引ッ張リ出シタマデダ」
(!? 石に、そんな力が……これで、地上から全てのゾムビー達が居なくなる。本当に和解できるんだ……)
主人公は不意に、爆破の残した遺書を思い出した。
(回想)
ゾムビー達が大切にしている石を奪ったのも私たち人間だ。そこは反省すべき点だと、私は切に思う。ゾムビーにも手を差し伸べる、共に歩んでいくという道もあるかも知れない。そこで具体的な方法を何か模索してくれないだろうか? 身体副隊長、サケル隊員、ツトム隊員、その他の隊員達でも構わない。何か策を考案して欲しい。そしてそれを実行に移し、ゾムビー達との戦いに、終止符を打ってくれ。
(回想終了)
(これで……スマシさんの悲願も叶う……これで……?)
『本当にいいの?』
主人公の陰が、主人公に語り掛けてくる。
『本当にこれで良かったの?』
抜刀、爆破の姿が脳裏に浮かぶ。
『二人の命を奪った敵……』
そして尾坦子との想い出が過ぎる。
(僕の大切な人を一時は……)
地上からの光は全て消え、全ての地上に居たゾムビーは球体の中に還った様子だった。
『オ帰リ、同胞達ヨ』
一方でうつむく主人公。ぼそりと何か呟く。
「……るか」
『ナンダ?』
その声をはっきりとは聞き取れなかった親玉は、主人公に耳を傾ける。
「お前達に僕の気持ちが分かるかぁあああ!!」
主人公の体は、両手から全身へと虹色に光り輝いて行った。
『!?』
「グングニル!!!!」
カッと輝き出すゾムビー達。
「ゾゾォ……!!」
「ゾム……!」
少しばかり苦しそうに声を上げる。
『人間ヨ。ココマデノ力ヲ持ッテイタトハ……私モ、コレマデカ……』
光は、ゾムビー達、紫色の石、球体、そしてゾムビーの親玉を包み込んで行き、その全てを消滅させていった。
「ハァァアアアア!!!!」
更に力を込める主人公。輝きは強く激しくなっていく。
そして――、シュウウンと、光とゾムビー達は消えていった。
「やった……か……?」
主人公は全ての力を使い果たして、疲労困憊となっていた。
虚ろぐ意識の中、ゾムビーの親玉は思うのだった。
『欲深キ人間共メ……。ドコマデモ己ガ信念ヲ突キ通シテミロ。ソノ先ニ何ガ待ッテイルノカ、見モノダナ……』
回避とサイコとツトム外伝 ~ゾムビー~ 完