第36話 - 第三十六話 宇宙、二日目
「エ?」
「今、何て……?」
凍り付く逃隠と主人公。
「悪い、少し残酷な話になるな。死んでいい人間は居ると思うか? と言う問いに関してだが、答えはYESだ。この世から死刑という概念が無くならない限り、YESとしか捉えようがない」
「……!」
「……」
爆破は話を続ける。
「少し話は変わるがいいか? 世の中で収まりを見せない、戦争についてだ。世界の神が戦争を生み、戦争を許し、戦争を続けさせた。神様でさえリジェクトの餌食にしなくてはならないのかな?」
少しだけ冗談を交える爆破。たじたじな様子の主人公。
「それと、戦争とは終戦宣言されてすぐに終わるわけではない。命令や宣言が行き届いていない兵士たちは人を殺し続ける。手を叩いてハイ終わり! というわけにはいかないのだ。この戦いも同じく、ハイ終わりという風にはいきそうにない」
「!」
逃隠も、話に集中し始めた。
「さて、私は様々なゾムビーを倒してきた。時には同胞さえも……しかし、他の方法があったのではないかと、時々、思うんだ」
「あ……」
(回想)
(……本質を見極めろ、爆破スマシよ。そして迷うな、一遍の迷いもなく攻撃しろ。奴はもう、人間じゃない……!)
「バースト‼」
「ボンッ‼ ボンッ‼」
抜刀の刀、次いで右腕が弾け飛んだ。
「! 許せ……」
「ボッ! ボッ! ボン!」
抜刀セツナは木端微塵になっていく。最後は頭が弾け飛び、抜刀の命は尽きた。
(回想終了)
「フ――。さて、今日はこの辺にしておくか? 時差ボケで体内時間を調整するのも大変だろう。そのまま足を固定して眠るといい」
「あっ、ハイ。……お休みなさい」
「寝るんだい」
爆破は静かに言い、暫く虚空を見つめていた。主人公と逃隠は就寝前の挨拶をして、眠りについた。
翌日――、
「皆、朝だ……起きろ」
「ん?」
主人公達は、爆破の一声で目覚めを迎えることとなった。
「これが朝食だ、今から作り方を教える」
爆破はフリーズドライのご飯を用意した。宇宙食のご飯はお湯を加えてからよく混ぜ、出来上がるまで30分程かかる。
「まだなんだい?」
しびれを切らす逃隠。
(これから5日間? くらい宇宙食か……実家のご飯が恋しいよ……)
主人公は心の中で弱音を吐く。
30分後――、
「パクッ」
宇宙食を食べる主人公。
「う……」
一口目で固まる。
「……美味い」
「パクパクパク……おかわりだい!」
逃隠も宇宙食が気に入ったようだ。
「はは、見た目でマズいと思ってたのか? 宇宙食もここ最近、進化してきたのでな。栄養はもちろんの事、味もなかなかだぞ? 因みにカレーやラーメン、寿司もメニューにある」
「!」
「‼」
爆破の言葉に極端に反応する主人公と逃隠。
「マジですか!?」
「まぢスか!?」
声を揃える二人。
「そんなにがっつくなよ。少し冷静になれ」
朗らかな表情で爆破は話す。
「ご飯だけが楽しみではないぞ? 窓を見てみろ。美しい光景が広がっているし、地球の大きさだって目の当たりにできる」
窓から外の景色を見る主人公と逃隠。
「おっきい……」
「地球は青いんだい」
二人は口々に言う。
「さて!」
爆破が口を開く。
「ご飯が済んだら昨日の続きだ。人生のイロハをお前達に伝授する!! だが、すぐにとは言わない。宇宙食だが味わって食べるといい」
20分が経過しただろうか。主人公達は朝ごはんを食べ終わった。
「よし! 食って寝るだけでは体力も落ちるしな。始めよう」
爆破が昨日と同じく人生のイロハを教える様だ。
「以前も話したかな? 裏切られたと感じる時に、人は鬼になってしまう。そして愛する人の為にも、人は鬼になってしまうものだ。覚えているか?」
爆破は問う。
「……」
「だい……」
主人公、逃隠の二人は考え込む。
「そうか、その様子だと覚えていないな?」
「ごめんなさい」
「すいませン」
謝る二人。
「いいんだ、中学生の記憶力では、難しい部分も多かったと思う。愛から連想して、それに関連してかしないかは別として、恋愛について少しだけ、話そう」
「!」
爆破の言葉に反応する主人公。
(これだ! この話を基に、尾坦子さんとももっと仲良くなれたら……!)
「恋とは十人十色だ。そして男女間の友情は成立しない。行き過ぎるとムフフな事になるからな」
ずっこける主人公と逃隠。
「自分で言って、よく笑いませんね」
主人公の言葉にも、冷静でいる爆破。
「これは誰かが言っていた言葉だが、男は社会を作り、女は感情を知る、どうやらそういう事らしい。恋愛についての話は以上だ。少々実用性に欠けていたかな?」
(うーん、恋は十人十色で、男女間の友情は成立しない。それと、男は社会を作り、女は感情を知る、か……確かに実用性に欠けているかも……特に最後のは、実践向けではないかな)
「そうだ、お菓子があったな小腹も空いてきた頃だし食べるか?」
「あっ、いただきます」
「いただくんだい!」
爆破の提案に乗って、お菓子を食べ始める主人公と逃隠。
「乾パンというヤツだな。さて、話題を変えるか……私は自分のしている事に疑問を持ち始めたんだ。ここ数年の事になるがな」
爆破はそう言って話を切り出した。
「さて、昨日も話した通り、私は様々なゾムビーを倒してきた。しかし他の方法があったのではないかと、今では時々そう思う。それでも上の人間はゾムビーを殺せ、滅ぼせと指示を出してばかりだ。だから、世界がおかしいのか、自分がおかしいのか分からなくなっている。お菓子だけにな、なんちゃって」
そう言ってお菓子を食べる爆破。主人公達は苦笑いする。
「ホント自分で言ってよく笑いませんね」
と、主人公。
「私は笑いのツボが深いからな」
少しだけ微笑みながら爆破は返した。
「そうだ、ツトム。お前も何か言ってみてはどうだ?」
「何をですか?」
急な爆破の問いかけに、戸惑う主人公。
「何か……ギャグだ……」
「!! !! !! !!」
爆破の発言に驚愕する主人公。
「どうだ? 言ってみないか……?」
「ちょ、ちょっと待って下さい! いきなり過ぎて……」
混乱している主人公。
「何でもいいんだぞ? ほら、言ってみるんだ」
爆破は催促する。
「じゃ、じゃあ……ボク、ぼくねんじん」
「…………」
「…………」
主人公のギャグで静寂に包まれる機内。
「……つまらんな」
「だから言いたくなかったのにぃ!!」
爆破の辛辣な言葉に、発狂寸前の主人公。
「もう一度チャンスをやろう、ツトム」
「いいですよ……」
爆破の提案にもむすっとした様子の主人公。
「そうか、それならいい。この事は深入りするな、不快になるからな」
「もうなってます!」
主人公は完全に機嫌を損ねてしまったようだ。
「ハハハ、まぁそう怒るな。人生全てが勉強だ」
「!」
爆破の言葉に主人公は反応した。
(またこの言葉だ……オヤジギャグの様なこの会話にも意味が……勉強になるのだろうか……でもまぁ)
フーと溜息をつく主人公。
(隊長だけは敵に回したくないな、色んな意味で……)
「? ツトム、私の顔に何か付いているのか?」
爆破は問う。
「何でもありませんよ!」
主人公は元気よく言った。