第18話 - 第十八話 助太刀
「何だ!?」
「ゾ……ゾ!!」
「ボコボコボコボコ」
ゾムビーの片足の欠けた部分から泡が吹き出るように細胞が現れ始めた。
「!?」
「ゾ……ゾ――!!」
「ボコボコボコボコ……シュ――」
増えだした細胞は、完全な足の形となって露わとなった。足からは煙が立ち込めている。
「う……うそ……でしょ……?」
呆然と立ち尽くす主人公。
「チィ! ……ツトム! まだダ!! 絶対に諦めるナ!!」
またしても果敢にゾムビーに立ち向っていく逃隠。
(無理だよ……サケル君……背中側への攻撃も正面への攻撃も効かない。足への攻撃は効いたけど……回復されてしまう……)
完全に希望を見失う主人公。
「ガッ! ガッ!」
攻撃の手を止めない逃隠。ゾムビーの拳を避け、地面に着地する。
「スタッ……ガク」
と、下半身の力が抜ける。
(!? しまっタ! もう体力ガ……)
跪く逃隠。
「ゾム……ゾム……」
ゾムビーが口一杯に体液を溜め込む。
(やばイ、体液カ!?)
「ゾゾゾ!!(くらえ!)」
口から体液を吐こうと、目一杯顔を上に上げるゾムビー。
「サケルくぅううううん!!!!」
ゾムビーの口から体液が吐き出される、正にその時、
「ビュン!」
何かがゾムビー目掛けて、猛スピードで飛んできた。それはゾムビーの口を裂き、背中を貫くように斜め下の地面へ突き刺さった。
「ザクッ」
「な、何だ!? あれは!」
主人公がゾムビーに突き刺さった何かを凝視する。それは、一振りの刀だった。
「か……刀?」
主人公は驚愕した。すると、聞き覚えのある男の声がどこからか聞こえてきた。
「……大丈夫か? サケル……」
「バッ」
主人公が振り向く。そこには、顔に左目の眉毛辺りから鼻を通り、右頬にかけてまでの大きな傷がある男、逃隠カイヒの姿があった。
「サケル君の……お父さん!」
主人公は声を上げる。
「今日は変な胸騒ぎがしてな、有休をとっておいて良かった。こんなところでこんな事になっていたとは……」
逃隠カイヒが言う。
「ジュウウウウ」
突き刺さり、ゾムビーの動きを止めることに成功していた刀だったが、ゾムビーの体液により、遂には溶け出してしまう。
「ゾ……(なん……だ?)」
ゾムビーは逃隠カイヒの方を向く。
「ふむ……やはり体液は強力だな。……先ずは……」
「ダダダッ」
逃隠カイヒは、ゾムビーの傍で蹲っている逃隠の元へ向かう。
「オ……親父……」
逃隠は逃隠カイヒを向いて言う。
「何も言うな……サケル……」
逃隠カイヒはそっと言い、逃隠を担いだ。
「暫く、あの子の近くに居ろ……」
逃隠カイヒは、逃隠を担いだまま、主人公の元へと向かった。
「よし……」
主人公の傍に、逃隠を降ろす。
「ツトム君、サケルをよろしく頼む……」
逃隠カイヒはそう言い残すと、今度はゾムビーの元へ向かった。
「あ……」
急な展開に、まともに返事する事ができない主人公。逃隠は疲弊しきっている。
「バッ」
ゾムビーに対峙する逃隠カイヒ。
「……行くぞ」
「ダッ」
ゾムビーの方へ間合いを詰めて行く逃隠カイヒ。
「体液で刀が溶けてしまうなら!」
「スパッ」
もう一つの刀で、ゾムビーの胴体を横一文字に切り抜く逃隠カイヒ。
「溶ける前に切り抜いてしまえばいいだけの事……」
「ピッ……ズズ」
ゾムビーの胴体は切れ目が入り、斜めにずれ落ち始めた。
(すごい! ……でも……)
感心しつつ不安に思う主人公。
「ゾ――――!(うおぉぉぉおおお!)」
ゾムビーは、唸り声を上げる。
「ボコボコボコ」
直後、ゾムビーの胴体の切れ目から細胞が吹き出始める。
「ボコボコ……」
ゾムビーの胴体は程なくして、元通りに完治した。
(やっぱり、だめだ!)
落胆する主人公。
「ほう……普通のヤツらとは、また一味違うという事か……」
一方で逃隠カイヒは動じない。
「(なかまに……なれ……!!)ゾムバァアア!」
ゾムビーが、逃隠カイヒ目掛けて体液を放つ。
「避け」
「サッ……バシャアア」
必要最低限の動作で、逃隠カイヒはそれを避ける。
「ゾッ!(はっ!)」
間合いを詰めていたゾムビーは逃隠カイヒの頭部目掛けて殴打を繰り出した。
「……首避け」
「サッ……ブン」
逃隠カイヒはそれを避け、ゾムビーの拳は空を切る。
「ゾゾゾッ!(くらえっ!)」
今度は、蹴りを繰り出すゾムビー。
「飛び避け!」
逃隠カイヒはそれを大きく横に飛び、避け切った。
「ゾッ!」
攻撃の手を緩めないゾムビー。
「なんの!」
それを体にかすらせもせずに避け切る逃隠カイヒ。
「逃げ続けるは、己と他の命を守る為! 避け続けるは、新たな好機を掴み取る為!」
逃隠カイヒは叫び、攻撃を回避し続ける。主人公は思う。
(そうだ。ゾムビーの攻撃は避け切らないといけない。避けなければ、命は無い! リジェクトは連続して打ち続けられない。避けて避けて避け続けて、力の回復を待たなければならない! ……回避は! サイキッカーにとって大事なんだ!)
二人の攻防は続く。と、逃隠カイヒが口を開く。
「サケル! もう体の方は大丈夫か!? 次、仕掛けるぞ!」
逃隠は答える。
「あア……親父……何とかしてやル……!」
「……よし!」
逃隠カイヒは一歩引いて、鞘に収めた刀の柄に手を掛ける。
「はっ!」
「スパッ」
鞘から刀を抜きつつ、またしてもゾムビーの胴体を切り抜く逃隠カイヒ。ゾムビーに切れ目が入る。
「そこっ!」
次いで逃隠カイヒはゾムビーの上半身を、履いていたゲタで蹴った。
「ドッ」
ゾムビーの体は横に真っ二つになっていたため、上半身は下半身を残し、飛ばされた。
「ドシャアアア」
「ゾ!(あ!)」
下半身は直立しているが、上半身は地面に横たわっている状態のゾムビー。と、ゾムビーの下半身の切れ目に何か輝くモノが。
「ん? あれは?」
逃隠カイヒはそれに気付いた。
「ゾ……ゾゾ!(か……からだ!)」
ゾムビーは腕だけで上半身を起こし、下半身へ向かいそのまま動き出した。
「サケル! ゾムビーの下半身に何か輝くモノがある! あれを奪うぞ!」
逃隠カイヒが叫ぶ。
「合点承知の助ぇえええエ!!」
逃隠はそう言い放ちながら走り出す。
「タンッ」
ある程度、ゾムビーに接近した時点で、飛ぶ逃隠。サッと輝く何かを奪い取る。
「クルン……スタッ」
そのまま宙で一回転した逃隠は地面に着地した。
「ツトムゥ! やつの心臓の様なモノを奪った。リジェクトをお見舞いしてやレ! 今なら効くかもしれねエ!!」
主人公に向かって叫ぶ。
「う、うん! やってみる!」
主人公は返した。
「(頼む……効いてくれ!)リジェクトォオオオ!!」
一抹の不安を抱きつつも、リジェクトを放つ主人公。
「ゾ?(な?)」
「バシャアア!!」
ゾムビーの上半身、下半身は共に吹き飛び、破裂した。
「や……やった……」
「へへ、やりィ」
安堵の表情を浮かべる主人公と逃隠。
「!」
と、逃隠がゾムビーから奪ったモノを見て何かに気付く。
「これハ……」