第15話 - 第十五話 石
K県の沼地――。
湿度が高く、蒸し暑い中、汗を額に浮かべながら爆破は進んで行く。すると、
「ゾォ……ゾォ……」
「ゾム……ゾム……」
前方二時の方向、十時の方向から、ゾムビー2体が不気味な呻き声を上げながら現れた。
(あの大木から真西の方向、私の分担だけでもう7体か……。こんなにも多いとは――な)
ゾムビー2体は左右からじりじりと距離を詰めて来る。
(はさみうちだ……)
(ほうむってやる……)
ゾムビーの体液の射程圏内に入った、その時――、
「バッ」
爆破は両手を左右に広げた! そして――、
「バースト……!!」
「ボッ!」
「ボッ!」
爆破は左右から来るゾムビーを同時に爆発させた。
「……ふう、流石に疲れてきたな……皆は、無事だろうか……?」
と――、
「ズボッ」
爆破の右足が、ぬかるみに足をとられた。
「ん!」
爆破は冷静に、もう片方の足を安全な場所へ移す。
その時――、
「ゾムバァアア!!(あのいしを……まもる……!)」
ゾムビーがまたしても発生した。
「くっ! こんな時に……!」
「ゾゾォ!!」
ゾムビーが拳を振りかざしてくる。
「!」
爆破は右足の自由を失った状態でそれを避ける。上着をかすめた。その時、爆破が所持していた、あるモノが上着からこぼれ落ちた。
「ふん!!」
爆破はぬかるみから右足を引き抜き、ゾムビーと交戦する。
「ゾゾォ!!」
再び拳が!
「! ここだ!!」
爆破は沼地のぬかるんでいない部分を見つけ、そこへ飛び移りながら拳を避ける。
「お返しだ! バースト!!」
「ゾ?」
「ボッ!」
ゾムビーは吹き飛んだ。
「ん?」
上着から落ちたモノに、爆破は気が付いた。
「あ……」
それはコンパスだった。持っていたハンカチで泥やゾムビーの体液を拭いて、手に取ってみる。コンパスの針はぐるぐると無尽に回っていた。
「壊れてしまったな……」
隊が3組に分かれてから3時間弱――。
南東組が北東組を探したが、結果北東組は全滅していた。南東組は更にゾムビーと応戦、逃隠の活躍により、ゾムビー全てを撃退した。と――、
「?」
主人公は何かに気が付く。ポケットに何かドロドロの物が入っていた。
「これは?」
「やあやあやあ、皆の衆。何か発見したか?」
木々の奥から爆破が現れた。
「隊長! ご無事で」
身体が話し掛ける。
「? ここは南東に位置するのか? いやぁ、コンパスが途中で壊れてしまったようでな」
あっけらかんと話す爆破。
「……いえ、北東方面です。北東組の連中は、残念ながらこの有り様です」
そう言って指をさす身体。指差した先には隊員の片手がぬかるみから浮かんでいる。
「……そうか、その他は無事だったか?」
真剣な表情になる爆破。
「はい、南東の隊は全員無事です。隊長の方は?」
質問に答え、逆に質問を返す身体。
「それは良かった。こちらも何ともない。ただ、こっちの方へ向かう途中、やけにゾムビーが発生していたな。8体ほどだったか? 全て駆除しておいた」
「……流石です」
返ってきた爆破からの言葉に、感心する身体。
「さて、戦果報告を聞こうか?」
「ハッ!」
爆破の申し出に答える身体。
「今回、遭遇したゾムビーは5体、犠牲者は北東に向かった隊員5名。地面のぬかるんだ地形に阻まれ、苦戦を強いられました。が、……」
チラッと逃隠に目をやる身体。逃隠と目が合う。
「逃隠サケル隊員の活躍もあり、窮地を脱することに成功しました」
(うおおぉおおあああああああア!!!!)
両手を握りしめ、顔を上に向ける逃隠。有頂天である。身体の報告は続く。
「5体のうち、3体は私とツトム、隊員がそれぞれ1体ずつ倒し、残りの2体のうち1体は私と隊員で、もう1体は私とサケルで倒しました。最初ここに辿り着いたときには……」
「あの……」
報告中に、主人公が割って入る。
「何だツトム? 戦果報告中だぞ?」
注意する爆破に、遠慮しがちに返す主人公。
「すみません。でも、どうしても気になるコトがあって……さっき、この場所で偶然拾ったのですが……」
何かをゴソゴソと差し出す主人公。
「! これは……?」
――狩人ラボ、会議室。爆破、身体の他に10名程の人物が居る。
「――以上が、この前の沼地調査の報告になりますが、もう一つ話しておきたいことが……」
報告の途中で、ある話を切り出そうとする爆破。
「?」
少しざわつく会議室。
「隊員の内の一人、主人公ツトム隊員が、沼地のぬかるみから、とあるモノを発見しまして……」
「ゴソ……」
懐から何か取り出す爆破。それは紫色の宝石様なモノだった。
「なんだなんだ?」
「宝石か……?」
「そんなものがなぜ沼地に?」
再びざわつく会議室。爆破が口を開く。
「ラボの研究員に調査を依頼したところ、過去に採取した、ゾムビーの肉片と同じ成分が検出されました。」
「なんだって!?」
「こんな宝石から?」
「……研究員はゾムビーの肉片を、凝縮させた様な物質と言っていました。ゾムビーの発生と、何かしらの関係性は無いか、今後とも調査を進めさせます」
宇宙――。
ゾムビーの親玉が球体と共に佇んでいる。
『今度ハ日本トイウ国デモアノ石ヲ奪ワレテシマッタ。我々ノ所有物ガ、コウシテ人間ニ奪ワレテイク……。ドコマデモ愚カナ人間達ヨ……。イズレノ日カ、コノ恨ミハ晴ラシテクレヨウゾ』
――狩人ラボの廊下。ツカツカと爆破が歩いている。
「スマシさん!」
爆破が顔を上げる。そこには、主人公と逃隠の姿が。
「報告、お疲れ様です。どんな様子でしたか?」
主人公が質問する。
「ああ、皆、あの宝石には驚いていたよ。ゾムビー撲滅への手掛かりとなってくれればいいが……」
爆破が答える。
「まァ、あの宝石を発見できたのモ、俺の活躍があったお陰だがナ!」
自信満々の逃隠。
「ハハ、そうだな。次もよろしく頼む」
「ラジャー!」
笑顔で言う爆破に、そう返事する逃隠。
(見つけたのは僕なのに…………まぁ、いっか。サケル君は前回、すごく頑張ってくれたもんな。しばらく、いい気分にさせてあげよう)
一瞬不満げだったが、気を改める主人公。
「今日はこの後、二人はどうするんだ?」
爆破が問う。
「僕はもう帰ります。(尾坦子さんにも会ったし……)」
主人公は答えた後、少しにやける。
「俺ハ、身体副隊長ト、今後の活動について熱く語り合いまス!」
逃隠は元気よく答えた。
「ハハハ、そうか。サケルは本当に副隊長の事が好きなんだな。私の方はだな、今日の勤務がこれで終わりなんで、趣味のソロツーリングにでも出掛けるよ。そこでゾムビーにでも出くわすかもな」
(……なんて効率の良さと実益を兼ね備えた趣味なんだ……!)
爆破の言葉に驚愕する主人公。
「じゃあな」
『ハイ!』
爆破に敬礼する二人。
――夕日が傾く河川敷。
「ブロォオオオオオオオオ!」
軽快な音を鳴らしながら、一台のバイクが走っている。バイクには黒のライダースーツ姿の女が乗っていた。爆破スマシである。
(……いいものだな。バイクで走るのは。日頃の疲れがスッと飛んでいくようだ……ん?)
ふと、河原に目が行った。そこには見慣れた姿の生物が。宿敵、ゾムビーである。思わずバイクを止める。
(まさか本当に出くわすとは……あれは!?)
爆破は何かに気付く。ゾムビーの目の前にやたら派手な姿をした男の姿があった。
「ゾ……ゾゾ――――!!」
ゾムビーが男に襲い掛かる。
「まずい! 逃げろ――!!」
爆破が叫ぶ。刹那、男がつぶやく。
「抜刀……一閃……!」