第9話 - 第九話 逃隠(にげかくれ)サケル
主人公は病院を退院し、自身の中学へ再び通い始める事となる。
主人公の通う中学校までは家から徒歩20分といったところだ。学校までの道を歩くさなか、主人公はちょっとした考え事をする。
(入院してから久しぶりの学校だけど、みんな元気にしてたかな? 第一声、どうしようか)
気付けば、学校の校門まで来ていた。
玄関、廊下、階段と歩いていく。3階の廊下を歩いていても知り合いとは出会わなかった。2年4組、主人公のクラスの教室の前まで来た。
(緊張するな……とりあえず、おはようと言って入ってみよう)
「ガラッ」
「おはよう……」
教室の中にはそれぞれにグループを作り、会話している生徒が。誰も主人公に気付かない。
(…………)
主人公はそそくさと自分の席である教室全体から見て真ん中やや後ろの席に座った。ポツンと一人、朝礼の時間を待った。
「ガラガラ」
担任教師が教室にやってきた。
「うおーい。お前ら、朝礼始めるぞ」
「起立、気を付け、礼……着席」
クラス一同、挨拶を済ます。担任が話す。
「ツトムゥ、しばらくの間大変だったな。勉強、しっかりついていけよ。ところで今日は、大事なお知らせがある。転校生だ。みんな、仲良くしてやってくれ」
ざわつく教室。
「ささ、入ってくれ」
「ガラッ」
戸が開く。そこには小柄な男子生徒が立っていた。
「ひとまず、簡単な自己紹介でもやってくれ」
担任の言葉にぺこりとお辞儀をし、転校生は教壇に立つ。
「俺の名前は逃隠サケル!!!! 俺の夢……いや、目標は! 世界中のゾムビー共を駆逐することダ!!!!!!」
「なんだなんだ?」
「ゾムビーを駆逐するって言ったな」
ざわつく教室。
(まさか……一人でゾムビー達を倒す気なの? そんなの無理だよ)
動揺する主人公。
「てか、中二病臭くないか? 言ってる俺たち中二だけど……」
「なんだよ、あの身長でどうにかできるのか?」
「シカトだシカト。ハブろうぜ」
ひそひそ話が徐々に罵声に変わっていく。赤くなる逃隠。
「こらー、あんましからかったり、ちょっかい出したらダメだぞー」
担任がそう諭す。
(それどころか、逆に誰も相手してくれないよ)
心の中でツッコミを入れる主人公。
「とりあえずー、ツトムの後ろの席、空いてるからそこに座ってくれー」
そんな担任の言葉を聞き、歩き出す逃隠。まだ顔を赤らめ、下を向いていた。
――。
2年4組、主人公のクラスで小テストが行われていた。
トントンと、後ろから軽く背中を叩く者が。主人公は答案用紙を自分の体からずらし、後ろから見えるようにした。逃隠は主人公に、カンニングさせてもらっているらしい。どうやら、この二人のカンニングする、される関係は暫く継続するようだ。
数日後、体育館裏にて――、
「ゾム……」
主人公、逃隠、そして友出コガレの前に、ゾムビーが発生した!
(なかま、やられた……。にんげん、たおす)
「どこから湧いてきやがった⁉」
体育館の近くの排水口に、ゾムビーの体液らしきものが滴っている。
「ゾムビーだ! 危ない! コガレ君!! 逃げて!!」
叫ぶ主人公。唖然とし、立ち尽くす友出。
「サケル君! 回避の術を使って応戦しよう! コガレ君を助け……」
振り向く主人公。しかしそこに逃隠の姿は無い。
(逃げたぁ!?)
驚愕する主人公。一方で友出はようやく冷静になり、体を動かせるようになっていた。
「化け物め! 喰らいやがれ!!」
ゾムビーに蹴りを入れる友出。
「ガッ」
ゾムビーの顔面にヒットする。一旦、怯むゾムビー。しかし体勢を整え友出に襲い掛かる。
「ゾムー!!」
「ダメだ! コガレ君、奴が出す体液に触れたらいけない! ゾムビー化してしまう! 逃げて!!」
「うるせぇ! ツトムのクセに俺に指図するな!」
主人公の忠告に、そう反論する友出。
「(いまだ!)ゾムバァ!」
「バシャッ」
ゾムビーの口から体液が吐き出される。
「うおっ」
体液を避ける友出。
「バシャッ……ジュウゥゥウウウ」
体液が落ちた地面が軽く溶け出して蒸気を上げている。
(ツトムの言ってることは嘘じゃなさそうだな)
少し焦り始める友出。
(コガレ君を助けないと!)
ポケットに入れていた手袋を取り出す主人公。
「ギュッギュ」
手袋を手にはめる。
「やぁぁああああ!!」
走り出し、両手でゾムビーを押し倒そうとする主人公。が、ゾムビーを押し倒せない。
(重い、病院の時とは違う!)
「ゾム(くらえ)!」
逆に主人公を突き飛ばすゾムビー。
「うわっ!」
4、5メートル吹き飛ばされる主人公。幸い、長袖長ズボンの学ランの制服を着ていたので体液は体に付かなかった。地面に横たわる主人公。
(病院の時のゾムビーとは、パワーが違う!)
「クソがっ!!」
ゾムビーを2、3発蹴る友出。しかし今回は腕でガードされ、ダメージが入らない。
「ゾム!」
逆に友出の脚に蹴りを入れるゾムビー。
「なっ!?」
「すてーん」
派手に転ぶ友出、地面に横たわる。
「ゾム……ゾム……(おまえも、なかま……なれ……!)」
友出に近付くゾムビー。
「逃げて!! コガレ君!!」
叫ぶ主人公。
「くっ」
動けない友出。
「ゾムバァアア!!」
体液が友出に襲い掛かる。
「コガレ君!!」
(嫌だ……絶対に……コガレ君を、死なせない!!)
瞬間、主人公の手袋をはめた両手が光り出す。そして、
「ブワッ」
謎の光が放たれ、友出に襲い掛かっていた体液ごと、ゾムビーが吹き飛ばされた。
「ガッシャン」
「ゾムァアア!」
敷地内のフェンスまで吹き飛ばされるゾムビー。
「コガレ君は! 僕が守る!! だって、親友だから!!!!」
主人公の両手が更に強さを増して光り出す。
「ハァァァアアアアア!!!!」
「ゾムゥウウウウウウウ(いたい、やられる)!!」
ゾムビーの体が、中に何かが入り込んだように変形し出す。そして、
「ゾマァァアアアアア!!」
「パァン!!」
ゾムビーの体が破裂した。フェンスのすぐ下に、ゾムビーの肉片が落ちていく。フェンスには、大きな穴が開いてしまった。
「た、助かった……」
安堵の表情を浮かべる友出。
「コガレ君、大丈夫?」
駆け寄る主人公。
「ああ、お陰様でな」
答える友出。すると、
「ツカ……ツカ……ツカ……」
前に主人公が聞いた、あの足音が近付いてきた。
「私が来たからにはもう安心だ、少年……と言いたいところだがこれは一足、いや二足も三足も遅かったかな?」
「スマシさん!」
爆破スマシが現れた。