第7話 - 第七話 主人公ツトムの入院生活
それから二年後の2022年、春――。
爆破は防衛大を首席で卒業した。卒業後は空曹長に任命され、通例通り、幹部候補生学校に所属した。
丁度その二年後の事だった。ゾムビー撲滅協会の会議にて――、
「もはや議論を繰り広げる段階では無いな」
「ああ、もう動かなければ」
「ゾムビー対策組織、設立に向け、動こうではないか!」
――、
「まずは事の発端を整理しよう」
「ゾムビーの住処は、宇宙に在った」
ゾムビー撲滅協会の会議中、真剣な眼差しで、一同は会議に臨んでいる。
「そのゾムビーに関する何かを、米国が手にし、持ち帰ったことから地球でゾムビーが発生する様になった」
「おのれ米国め……」
「余計な事をしてくれたな」
「さて、地球でのゾムビーの縄張りは、薄汚れた場所や、湿った場所。何故かは分らんが、ゾムビーはそういった場所に出て来る」
「そうと分かれば!」
「探索が必要だな」
この週にはゾムビー対策組織(仮)が動き出した。
こうしてゾムビーの探索、駆除が日本でも積極的に行われていった。その先頭に立つのは、爆破スマシ――。
ゾムビー対策組織(仮)の指示を受け、現場に急行。亡くなった杉田から教わった、『力の使い方』を駆使し、ゾムビー達を撃破していった。
更に月日は流れ、2026年――、ある日、スーツ姿の男は爆破に話し掛ける。
「さて、爆破さん。ここの部隊も、ゾムビー対策組織(仮)では箔がつかないと思わないかい? 何か名前を付けてみてはどうかな?」
「名前……か……」
「どうするのかね、爆破隊長?」
「よし! この部隊を、今日から!」
爆破は声高らかに言う。
「狩人と名付ける!!」
かくして、政府公認部隊・狩人が結成された。
その頃、アメリカでは――、
『めっきり姿を消しちまったな、ゾムビーの奴ら』
『被害が出ないに越したことは無いだろう?』
fireとボディアーマーがMASA施設内の一室で会話をしている。
『いやぁよお、身体が鈍るっていうか、毎日“力”を使っておきたいんだよ』
『そんなのは、訓練場で済ませればいいだろう?』
『いやぁ、あそこじゃ緊張感に欠けるというか』
『フー、やれやれ』
ボディアーマーが溜め息をついたその時、
「ウィーン」
一室の扉が開いた。
『やっ』
『よお』
そこに現れたのは、サイコキネシスとワープだった。
『なーに? 退屈そうな顔して』
サイコキネシスはfireに話し掛ける。
『それがよぉ、最近ゾムビー達がめっきり姿を現さなくなって、フラストレーションがたまっているって言うか……』
『そうか、それなら朗報だ』
『!!』
『!?』
fireとボディアーマーはワープの一声に反応した。
『ゾムビー駆除へ向けての探索が、来週から始まるらしい。これまでは向こうから来たのを反撃していただけだったが、次回からはこっちから攻めていけるって訳だ』
『それは本当か!?』
『こんなコトで嘘をついてどうなる、fire? じゃあ、そういう訳だから、俺らは英気を養うぜ』
『バイバーイ』
ワープとサイコキネシスは去って行った。
『おっしゃ! これでゾムビーを見つけたら、ぶっ倒せるってコトだな!? 気合がみなぎるぜ!!』
『やれやれ』
『ところで』
『?』
『あいつら、できてんのか?』
『…………』
アメリカでは、このようにhunterが、ゾムビー達が居そうな場所を探索、ゾムビーを見つけ次第、戦闘を行い、処理していくようになった。
一方で日本は、軍を持たない国として、自衛隊だけでは兵力不足で、探索へは踏み出せずにいた。ゾムビー被害が出ると急行、そこで交戦し、被害を最低限にとどめるよう、尽力していく形をとった。そうしてゾムビーへの対応が行われていくうちに、時は過ぎ、
2028年を迎えた。
春、精神病棟にて。ラウンジのテレビからニュースが流れている。
「昨晩、またしてもゾムビーが発生しました。ゾムビーはK県の繁華街にて発生。食事中の客などを襲いましたが、2時間後には政府公認部隊・狩人によって、事件後ゾムビー化した民間人を含む全てのゾムビーが処理されました。次のニュースです……」
ラウンジに座る少年、もう一つの物語の主人公、主人公ツトムがつぶやく。
「はぁ。入院生活なんて暇過ぎて退屈だなぁ。ゲームボー〇でも持ってくれば良かった」
と、ハッと時計を確認する主人公。時計は午後2時32分を指していた。
「やっば! 遅刻だ。これからデイケアなのに!」
デイケアとは、ゲームや簡単な手作業を通じて、社会復帰の体力と作業能力を維持、向上させることなどの福祉・医療関係施設が提供するサービスの一種である。ざっくり言うと、この病院ではオセロや将棋、トランプ、パズルやペーパークラフト、もの作りをやっている! 主人公は、このデイケアにて、もの作りとして革製の手袋を作っているのだ!
「今日で完成するかな。でも出来上がったら何に使おうか?」
速足でデイケアルームに向かう。誰かが主人公に話しかける。
「あら、ツトム君、これからデイケア?」
「あ、尾坦子さん」
尾坦子ナース、主人公が入院している精神病棟で務めているナースである。グラマラスでおっちょこちょいな性格から、入院患者からの(主に男性)人気は高い。
「そうなんです。ちょっと遅刻しちゃってて」
そう主人公は返す。
「そうなんだ! 遅刻してるからって院内を走ったりしたらダメだよ。あと、デイケア、無理せず頑張ってね」
そう言って立ち去る尾坦子。尾坦子が立ち去った後、つぶやく主人公。
「尾坦子さん、今日もかわいいなぁ」
主人公も院内の尾坦子ファンの一人である。
デイケアルーム――、入院患者たちが各々将棋、パズルをしたり革細工としてメガネケースを作ったり、大胸筋サポーターを装着するなどしている。主人公がデイケアルームに辿り着く。
「遅くなってすいません」
受付に居る人が答える。
「ハイハイいいですよ。カード出して」
デイケアルーム使用に必要な紙を差し出す主人公。
「じゃあ、今日も行っていきましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
軽く挨拶を済まし、作業台へ着く主人公。作りかけの手袋を台座に置く。革を縁取ってそれぞれのパーツを作るところまでは完成していた。
「刻印はどうしようか。……そうだ、手の甲に星を一つ。色は……」
作業を進める主人公。
そして――――
「よし、できた。あとはひもで縫い付けるだけだ」
暗めの茶色地の革の真ん中に黄色い星。ここから生地と生地を縫い付けていく。丁寧にひもで縫い付けていく主人公。
「ひもを縫う作業って案外楽しいんだよな」
時間を忘れて作業に没頭していく。順調に形が出来上がっていく。
――、
「できた」
手袋が完成した。
「我ながらいい出来だなぁ。……革の質感っていいな」
出来たてほやほやの手袋に頬ずりする主人公。
「匂いも……いい……」
「ジリリリリリリリリリリ‼」
「!?」
驚く主人公。警報が鳴り響く。
「皆さん、逃げて下さい!」
尾坦子が息を切らしてデイケアルームに登場。続けて言う。
「奴らが! ゾムビーが! この病院に!!」