第2話 - 第二話 拡散
『くそっ! 何てことだ!? あの化け物がこの基地にも!!』
『非戦闘員は大体やられたと見ていい! 戦闘員の俺らで何とかするぞ!!』
MASA施設内――、銃器を持った隊員達が小走りで移動している。
「ひたっ」
『! 居たぞ!!』
施設の曲がり角に、ゾムビーの姿が。そして――、
『見ろ! 俺達のユニフォームを着たヤツも居るぞ!!』
ゾムビー化した、元MASAの隊員も居た。
『クソ!! 研究員の仲間か……?』
『しょぼくれるな! 戦わないと俺らもああなるぞ!!』
『そうだな……。許せ……!』
「タタタタタタタタ!!」
銃口から銃弾が放たれる。
「ゾゾォ!!」
「ゾムゥ!!」
蜂の巣になっていくゾムビー達。
「シュ――――」
銃口から焦げ臭い煙が立ち込める。
暫くし、その煙が立ち消えた。
『!!』
『!?』
そこには、ゾムビー達の残骸が、無惨にも転がっていた。隊員達はその残骸に近付いて行った。周囲には腐敗臭が漂っていた。
『見ろ……』
隊員の一人が、元MASA隊員だったゾムビーが着ていた服の刺しゅうを指さした。
『アーロン……』
『アーロンさん、冥福を祈ります』
隊員達は手を合わせた。
宇宙にて――、
ゾムビーの親玉が嘆いていた。
『オオ、同胞達ヨ……。憎キ人間共ト戦ッテクレテイルノカ? 私モソチラデ戦イタイガ、ソレハデキナイ。コノ“船”ノ制御ガトレナクナル。ココデ指ヲクワエテ見テイル事シカデキナイノカ……? 同胞達ヨ……ドウカ一人デモ多ク、生キ残ッテクレ』
再び、MASA施設内にて――、
『あの宝石を手にしてから、化け物が地球の各地で発見されるようになったわけですが……』
会議室の様な部屋。円卓を囲んで8名ほどの人物が座っている。それらの人物は口々に言う。
『人間にたてつこうってのか? 一蹴してしまえ』
『我々の科学力の前では、敵も歯向かう事は出来ないだろう……』
『……その化け物は、体内や体の表面に体液を保持しており、それに触れると化け物と同じモノになってしまうとの事です』
『何だって!?』
『まるで映画に出てくるゾンビみたいじゃないか』
『……化け物の名を、“ゾムビー”と名付け、今後の襲来に備えていく所存であります』
それから一カ月後――、
『あちらに見えるのはゾムビーという名の化け物で――』
『体液を浴びると最後、身体が奴らと同じように――』
『政府は、ゾムビーの発生区域を――』
「ここ日本でも、いつゾムビーが発生するか分かりません。日本政府は、国連の指示の下、対応を早急に講じて行く構えです」
ゾムビーは世界各国に発生。ゾムビー関連のニュースが、世界を駆け抜けた。そうした人間の陽の目を見ない場所で、
「ゾゾ……」
5年かけてゆっくりと、ゾムビー達は体細胞分裂をし、増殖していった。
20××年初期――、
国連の会談にて、
『各国の会議の末、やはり月からゾムビーの宝石を持ち帰ったアメリカ側に責任があるという結論に至ったのだが、どうだね、 アメリカの代表?』
『はい。確かに、ゾムビー達から宝石を奪ったのは我々ですが……』
『!』
『!?』
『ゾムビーが宇宙に存在しているのを世界で始めに確認したのも我が国、アメリカ合衆国なのです。もし、あの時ゾムビーの存在を知る事が出来なかったら、今以上の被害が世界中で発生していたかもしれません』
『なっ!?』
『!!』
『むしろ、このくらいの被害で済んだと見ても良いのではないでしょうか?』
『ぐぬぬ……』
会談は終わった。ゾムビーの対策は各国で独自に行っていく事となった。
ロシア派閥の、“アメリカが率先して被害地域に赴き、対応していく”という意見は通ることは無かった。
それから数年が経過し、
日本――。
「ゾォオオ!」
「ゾム……」
「ぎゃあああああ! ゾムビーが出たぁあああ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! ゾムビー化させられるぅううう!!」
この国でもその存在が確認されるようになるゾムビー、猛威を振るう。
「昨夜、某繁華街で発生したゾムビーはおよそ10名の民間人をゾムビー化させましたが、駆けつけた自衛隊員により処理されました」
「昨日、オフィス街のゴミ捨て場に現れたゾムビーですが――」
「昨日昼に、某沼地に発生したゾムビーですが――」
日本でも、ゾムビーに関するニュースが駆け巡る。
そして2013年、2月――。
爆破宅――、ダイニングで朝食を食べている爆破。遠くでテレビからニュースキャスターの声が聞こえてくる。
「――、次のニュースです。かつて、アメリカであった生物の被害が、ここ日本でも確認されています。中継を繋ぎます」
「こちら謎の生物の被害があった現場です。周囲は悪臭に満ちています。さて、その生物は、こちらの様に汚れた場所が好みのようでアメリカでは、公害が酷い工場や、ゴミのポイ捨てが激しい川等に発生しています。その生物は、体内から放たれる体液により、人間をはじめとする動物を、自らと同じ体質の生物にしてしまいます」
「大変だな……」
爆破は朝食を食べつつ、一言、漏らした。
「発生元のアメリカは、その生物を“ゾムビー”と名付けました。ゾムビーを見つけた際には、迅速に警察に連絡し、その場から離れる様気を付けて下さい。スタジオに戻します」
「はい。皆さんくれぐれもお気をつけ下さい。次のニュースです――」
「まあ、物騒な世の中ね。スマシ、気を付けてね」
「分かった、母さん。行ってきます」
爆破は学校に向かう。そしていつもの様に通学路の途中で杉田に出会う。
「よっ」
「ああ」
「見たか? ゾムビーのニュース」
「ああ見た。恐ろしい世の中だな」
「この町で出くわしたらどうするよ?」
「まあ、警察に通報して、その場を逃げる……かな?」
「……そうだ!」
「!」
「スマシちゃんにはバーストがあるじゃないか!? アスファルトも破壊できるんだぜ? ゾムビーだって退治できるさ!」
「そんな……まだ、“力”を制御できないのだぞ?」
「それなら、バーンって全力でやっちまえばいいじゃん」
「気楽に言うなよー」
頭を抱える爆破だった。
数日後、バレンタインデーがやって来た。
朝――、
いつもより早めに、あの通学路の途中で爆破は杉田を待つ。爆破の目には少しだけクマができているように見える。
(結局……日付が変わる頃まで寝付けなかった……しかも、5時には目が覚めてしまった……)
ふと、杉田が来るはずの方向を見る。
(早くき過ぎたか……)
一人、思いを巡らせる爆破。
突如――、
「ぎゃああああああああ!!!!」
「!」
悲鳴が聞こえた。悲鳴のする方向へ顔を向ける爆破。そこには、腰を抜かした30代くらいの男性と、見るもおぞましい紫色の生物が存在した。
「なっ、あれは……!」