詩「カンカンカンカンカン」


有原野分2023/04/22 09:11
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詩「カンカンカンカンカン」

一粒の水滴がシンクに落ちるその瞬間、

わたしはいつもある感情をそこに挿し込んでしまう癖が

 ある

それは永い間閉じ込められていた心の奥底に眠っている

 胎児の夢だった

せっかくタバコを辞めようと思っていたのに

 

カンカンカンカンカン

 

傾いた実家の押入れから

見つかるはずのない母の手紙が出てきた

どうしていまさら

滞納した光熱費なんて気にするものか

二階の窓から見える路傍の石に

錆びたヤカンを投げつける

そのカーンと響く音がきっとこの家族の死因だったのだ

 

カンカンカンカンカン

 

新しい土地はいつも赤信号を彷彿させる

まるで真夜中の踊り子のように

黄金色のウイスキーを水で目一杯薄めていた父の明け方

 の香りによく似ている

朝だ

底なし沼のような生理的欲求が暁に死んでいく

私たちは本当に生まれてきてもよかった人間だったのだ

 ろうか

 

今夜もまた聞こえる

どうせ聞こえる

水の滴り落ちる音が

次の町の十字路を曲がった先の

どこかの家のシンクに落ちる

一粒の水滴の音が

 

その瞬間、

すべてがドロドロに溶けてしまって

逆再生のビデオのように世界がグルグルと巻き戻り

それを見ている私は

私という概念だけをその場に残して

また水で一杯の押入れの中で眠ってしまうのだ

 

だからまたつくり直さなくてはいけない

家族と

世界と

一服できるだけの狭い台所で浴びる

燃えるような夕焼けを

夜を

死を

新しい頭痛を

 

カンカンカンカンカン

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