本多 狼2020/10/11 11:33
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 ソリトゥスでセーロスたちを倒してからは、ほぼ予定どおりに旅は進んでいった。

 ソリトゥスを出発してから二週間ほどで、メルたちは当初の目的地だったコルリスの街に辿り着いた。

 

 ポルテ村では見たことのない白い石畳が美しく、夏を感じさせる六月の日差しはまぶしかった。

 コルリスは、今まで見てきた場所とは全く違った。

 行き交う人の数、建物の大きさ、売られている商品の種類など、ただただスケールの違いに圧倒された。

 

「フムフム、情報を仕入れるといえば――酒場だフム」

「でも、ヴィオたち、誰もお酒が飲める歳じゃないよ」

「フムフム、ヴィオが十二歳で……」

 フムスは、チラリと他を見やる。

「僕は十五歳」

「私は……十六よ」

「……おしいフム。酒場は十七歳からじゃないと入れないフム……」

 フムスが、困ったという顔でウロウロする。

 

「じゃあ、アタシが行くわ――」

「オオカミが入ったら、大問題だフム!」

「ヴィオも、そう思います」

「仕方ないわね……私が行く。お、大人っぽくすればいいんでしょ?」

「危険だよ、フロール。僕は反対だ。それに……もし酔っぱらったら、この前のこともあるし……」

「この前のことって、何? メルはそれでいいの? あなたのことが分かるかもしれないのよ。そのためにここまで来たんだから。私、やるわ!」

 どうやら、フロールの意志は固い。

 

「そうね、フロールに託しましょう。でも、一人では危ないわ。メル……フムスが付いていくっていうのは、どうかしら?」

 アウラがそう提案する。

「……分かった。僕たちは人目に付かない裏口で待つよ。フロール、何かあったら大声で呼ぶんだよ、いいね」

「うん」

 こうして、フロールと、かばんの中に隠れたフムスは、酒場へと入っていった。

 

     *

 

 入口のドアをそーっと開ける。

 そもそも、酒場に一人で入る女性とはどんな感じなのか、フロールには見当がつかない。

 客の視線が突き刺さる。

 意識して背筋を伸ばして歩き、カウンターの席へと向かう。

 とりあえず、端の席に座ってみる。

 

 あごひげを生やしたいかつい顔の店員が、カウンターの向こうから声を掛けてきた。

「ご注文は――」

 どうしよう……お酒の名前なんて知らないよ~。

 フムスがかばんの隙間から、

「とりあえず、生だフム」

と助け船を出す。

「と、とりあえず、生で……」

 大丈夫かな、ちょっと声が裏返ったかも?

 店員は軽くうなずいてフロールから離れていく。

 

「は~っ」と、思わずため息が漏れた。

 カウンターには他に三人の客が座っている。みんな男の人だ。

 話しかけられたら、どうしよう……。

 そう思っていると、すぐにお酒が届いた。

 黄金色の液体の上に、白い泡が乗っている。その黄金色の中には、たくさんのつぶつぶが見える。

 とても、きれい……そして、思ったよりも冷たい。

「の、飲まないと、変だよね?」

 小声でフムスに聞いてみる。

「ここは酒場だフム。飲まないと不自然フム」

 

 どうしようか考えていると、近くに座っていた赤毛の男が話しかけてきた。

「きみ、一人なの?」

「は、はい」

「じゃあさぁ、こっちに来て俺たちと一緒に飲もうよ」

「えっ、で、でも」

「みんなで飲んだほうが楽しいから、ほら」

 そう言って、フロールの腕をつかんで強引に連れて行こうとする。

「や、やめて……」

「これはまずいフム」

 

 フムスが意を決してかばんから飛び出そうとすると……。

「ここにいたのか、俺の席はこっちだ。行くぞ――」

 褐色の肌の男が反対側から現れ、フロールを自分の席へ連れて行った。

「チッ、なんだよ。連れがいたのかよ」

 そう言って赤毛の男は、もとの席へと戻って行った。

 

「あ、あの……」

「心配するな。俺はバザルテス。たぶん、お前たちが探している相手だ」

「えっ?」

 正面にいる男の隣をよく見てみると、オレンジ色の鋭い目をした鳥がいた。

「こいつは、タカのストラールだ」

「良かった! あなたも絆の民ね。会ってほしい人たちがいるんです」

「フムフム、良かったフム」

「――分かった。念のために、別々にここを出たほうがいい。一時間後、この通りの先にある宿屋で会おう」

 

     *

 

 フロールは仲間と合流し、約束の宿屋へと向かった。

 

 情報を得るという役目を無事果たせたこと、そして、久し振りにベッドで眠れる喜びで、フロールはご機嫌だった。

「ほらほら、だから言ったでしょ~。隊長になんでも任せなさい!」

「フロール隊長、すごいです!」

 ヴィオが完全に感化されている。

「フムフム。ヴィオ、違うフム――本当は、酒場の中では……」

 

 そこまで話したフムスだったが、悪魔、いや、魔神の見下ろすような視線を感じて凍り付く。

「た、確かに……フロールは見事だったフム」

「だよね~」

 フムスは――隊長には逆らえない、そう悟ったのであった。