オオカミか幼なじみか選べない……。

第30話 - VS.セーロス&ムース②

本多 狼2020/10/04 12:28
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 目の前は、いや、自分の周りはすべてヒマワリの種で覆い尽くされていた。

 初めて見る光景に、フムスは大興奮で飛び跳ねる。

「信じられない。食べ放題フム~!」

 手当たり次第に口の中へ放り込む。

「う、うまい。今まで食べたヒマワリの種の中で、一番だフム~ッ!」

 その手は止まることなく動き続ける。

「脂肪が多いから食べるなってヴィオは言うけど、最高だフム」

 おなかをなでながら、フムスはとろけるような微笑みを浮かべる。

「ん……、ヴィオって誰だフム?」

 

「おいしいでしょ、フムス。あなたのためだけに用意した、極上のヒマワリの種よ」

 どこからともなく、優しい女性の声がする。

「うれしいフム、どこの誰だか知らないけど、ありがとうだフム」

「あなたが望むなら、ずっとここにいていいのよ。こんなに喜んでくれて、私、とってもうれしいわ」

「フムフム、ここにずっといるフムー!」

 

     *

 

 遠くから、走ってくる人の姿が見える。

 男の人と女の人だ。見たことのあるような、ないような……。

 やがて、二人は目の前で立ち止まる。

 

「会いたかった!」

「ヴィオ、私の愛しい娘……」

 そう言って、二人はヴィオを強く抱きしめた。

「お父さん、お母さん……」

 ヴィオは、信じられないという表情を見せる。

 でも、この匂い、ぬくもりは間違いない。

 四歳のときに離れ離れになったお父さんとお母さんだ。

 

「ずっと、ずっと待ってた!」

 ヴィオは二人の胸に顔を埋める。大粒の涙が止まらなかった。

「そうだ、フムスにも紹介しなくちゃ……」

 

「慌てなくていいのよ、ヴィオ。久し振りの再会なんだから」

「そうだよ。まずは親子水入らずで、母さんのおいしい料理をいただこう」

「うん」

 

 やがて、テーブルに料理が運ばれてくる。

「さあ、おいしいお肉よ。いっぱい食べてね」

 置かれた皿を見て、ヴィオは心臓が止まりそうになった。

 

「ん~、いい匂いだ。ヴィオの大好物の、モルモットだよ!」

 

「嘘、でしょ……いやーーーっ!」

 

     *

 

 体が、動かない。

 アウラは、雪が積もった平原に倒れていた。

 自分の体に降り積もる雪を払いのける力も残されていない。

 かろうじてぼんやりと目の前が見える。

 赤い。

 たぶん、父や兄の血に染まった無残な姿……。

 そうだ、襲われたんだ、あいつらに。

 そうか、ここで死ぬんだ、アタシ……。

 近くで誰かの声が聞こえる。

 

「ディウブ、ベスタ――早く、娘を、アウラを殺して!」

 

 アウラは耳を疑った。

 

「私が計画したことがばれないように、皆殺しにするのよ」

 

 母は、アタシを助けたんじゃなかったの?

 

 誰かがアタシの背中に触れる。

 人間?

 でも、ベスタじゃないわ。

 

「君の母さんは、この群れを裏切った。だから俺が、君を逃がす……」

 この声は、母とバインドした人の……。

「俺の力で、君を助ける。君を、ここではない遠い場所へ飛ばすよ。あいつらの力が及ばない場所で、アウラ、君だけは生き延びるんだ!」

 もう、誰だったか思い出せない。

 でも、その人がアタシを命懸けで助けようとしている。

 

 母が、アタシたちを裏切ったの?

 母が、ディウブやベスタの仲間だったの?

 アタシは、これからどうすればいいの?

 もう、生きていても、仕方ない……。

 

     *

 

 村が、ポルテ村が、真っ赤に燃えている。

 龍のような、何か大きな生き物の舌のように、炎が荒れ狂っている。

 

 メルは、必死に母さんやジンクたちを探した。

 自分の家があったはずの場所は、もうどこなのか分からない。

 自分が立っているこの場所さえ、全く見当がつかないのだから。

 

 逃げ惑う人々の顔は、なぜか見覚えのない顔ばかりだった。

 その流れに任せて、メルは力なく足を動かした。

 

 かつて広場だったと思われる場所に、亡骸がうずたかく積もっている。

 先程までとは違って、それらはすべて知っている顔ばかりだった。

 

 メルがちょうど見上げた辺りに、ジンク、フィーナ、フロールがいた。

「ま、まさか、そんな……」

 やがて、頭を下に向けたフロールの顔が、半分崩れ落ちる。

「フロール!」

 

 そのとき、聞き覚えのある遠吠えが背後から聞こえてきた。

 メルが振り返ったその先には、アウラが立っていた。

 メルに見せびらかすように、アウラが何かをくわえる。

 ボタボタと鮮やかな血を滴らせながら。

 

「!」

 メルは、その衝撃的な光景に、思わず吐きそうになる。

 

 アウラがくわえているものは、間違いなく、首から下を食いちぎられたマリーだった!

 

「母さんっ!」