オオカミか幼なじみか選べない……。

第12話 - アタシは負けない

本多 狼2020/08/29 20:41
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 どれくらい経ったのだろう。

 アウラの顔を目の前に感じて、メルは目を覚ました。

 アウラが前足でメルの肩を叩く。そして小声で言った。

「あいつが近くにいる」

 

 メルは驚いて飛び起きた。

 すぐに窓の辺りをまさぐって、ナイフを手に取る。

「もう家の近くまで来てるわ。アタシたちで戦うしかない」

 アウラは淡々と言い放った。

 そのとき、あのハヤブサのファルが窓に降り立った。

 

 コツコツとくちばしで窓を叩き、礼儀正しくお辞儀をする。

「我が主の使いとして参った。ディーネー様が、村を出た草原で一戦交えたいとのこと。こちらとしても、そなたたちが来るのであれば、村の者に危害を加えるつもりはない。いかがかな?」

 メルは、アウラと目を合わせてから、ファルに向かって言った。

「分かった、行こう」

 

 マリーを起こさないように、静かに外へ出て、二人はファルに付いていった。

 普通に戦ったら勝ち目はない。

 今日初めてナイフの特訓をした自分は、全く歯が立たないだろう。

 しかし、マリーや村の人たちを巻き込みたくはない。

 そんなメルの思いが伝わったのか、アウラは体をすり寄せながらメルに言った。

「いい、メル――アタシは昨日のアタシじゃない。あなたに助けられて元気になったわ。記憶が戻らないけど、アタシは負けない。そして、あなたも――」

 メルは、体中が熱くなるのを感じた。

 これはきっと、アウラの強い意志だ。共感だろうか、共有なのだろうか。

 アウラの力が自分にも流れ込んでくるような感覚に、メルは驚くしかなかった。

 同時に、それはとても頼もしかった。