平行世界を旅して俺は自分に出会った
世界旅行と聞くと人は各国を巡ることを想像するだろう。
俺にとっては違う。
それは平行世界の旅だということ。平行世界? と頭を傾げる方も居ると思うので一応説明させていただく。
この世界はいくつもの”もしも”で溢れている。例えばもしも、恐竜が絶滅していなかったらと想定しよう。
するとこの世界はどうなる? まず未だに恐竜は世界に溢れかえっていただろう。そして人類は猿から発達することが出来たのだろうか?
答えはYes。出来たのだ…荒廃した大地に数々の恐竜…そして自然に奴らも発達することが出来たのであろう。二足歩行の恐竜が生息する世界が出来上がっていた。
そしてそれにひっそりと隠れながら、言語かどうかもわからない言葉を話す人間。
恐竜が支配する世界。猿だった祖先はその捕食対象から外れようと逃げ、生き残った者が次第に発達していき、人類は野生の生活を忘れなかった。同じ2020年でもあるにも関わらず、その生活は紀元前のものと同じであった。
なぜ知っているかって? それは実際に”視て”きたからだ。恐竜が目の前にいたのは驚きだった。そんな風に世界は枝分かれで出来ており、それが平行世界だ。
自由に平行世界を行き来できる能力に目覚めたのは丁度俺が10歳の頃だった。
平凡な家庭に産まれた俺は小学校5年生の時、思春期で色んな家庭に憧れを抱いていた。
もし、金持ちの家に産まれたらと妄想を膨らまし授業に取り組んだ。
まばたきをした瞬間、光が俺の身体を包み込み、何故か俺は教室の隅で立っていて、その授業を視ていた。しかし、俺は幽霊になったわけでも無いらしく、規律正しそうな先生が目を見開いてこちらを見ていた。
驚きたいのはこっちの方だと言いたかったのだけれど、その時すぐ目の前に居た1人の男子がこちらを向いた。
「「え?」」
その男子と目が合い…お互いに何度も同じタイミングでまばたきを数回した。同じ顔のパーツ。少し違うのは彼がかなり良いところで育ったのか髪はサラサラで、私服では無く小学校には珍しい制服を着ているということ。
そう、それは自分だった。
その事実と周囲の驚くような視線を受けて、とても居られなくなり、俺はすぐさまそこから逃げた。
教室から抜け出し、足を全力で振るい廊下を駆けて行った。後ろからザワザワと声が聞こえたが、気にせずに俺は本能に従って逃げた。
その学校は金持ちしか通わないと噂の地元にある私立の小学校。
これは悪い夢なのか? と自分自身の頭を疑う。だが現実だ、と足の疲労による痛みと上がった息が俺に訴えかけた。
誰もが思うであろう……自分自身が二人存在したら良いな、ということを。今現在俺は慣れてしまったが、初めて見る者は誰かに拘束してもらうことをお勧めする。
自分を見た時に感じるのは圧倒的な殺意。そして恐怖だ。ゴキブリを見つけた時によく似ていた。だからこそ逃げたのだ。このまま彼に危害を加えたら自分がどうにかなってしまう、そう考えたから何もせずに逃げた。
そして俺は自宅があった場所へと走った。そこには豪邸なんて建っていなかった。今までと変わらない賃貸の一軒家だ。
俺はその家に入ろうとして表札に目が行った。そこには『鈴木』と書かれていた。
俺の苗字は鈴木では無い。だから持っている鍵でその家に入ろうとはせず、インターホンを鳴らした。
『は〜い?』
機械から流れてくる女性の声は、母のものでは無く別人の声だった。その声は不安を植え付け、混乱を与えた。そして俺を絶望の縁に叩き落とす。
子どもながらに頭を巡らせて考える。耳の奥で脳から帰ってきた血液が、ドクドクと音を立てて流れているのが分かった。
そして俺は目を閉じて必死に念じた。元の世界へ戻してほしい…自分が居た世界に行きたいと。
瞼の向こう側で光が発せられ、透けた血管の赤が視界に飛び込む。
「あら! ジョウイチ! 先生から電話があったわよ?」
その声に俺は目を開けてそちらを見た。そこに居たのは紛れもない、俺の母だ。いつもと変わらない割烹着を着て、笑うとその目尻にはわずかにシワが寄る。いつも通りの母だった。
気がつくと俺は母の胸に飛び込んで泣いていた。母の身体は優しく俺の身体を包み、温もりを与えた。慌てながらも母は俺の頭をゆっくり撫でた。
その時母から聞いた話によると、どうやら俺が授業中に突然消え、教師から母へと連絡がいったらしい。それで丁度、外へ出ようとした時に俺が立っていたとのことだ。
その日から10年もその力について研究をした。周りに気づかれないようにコソコソと。
まず分かったのは、本当に自分が色んな世界を行き来しているんだという事実。
その次に、その世界での自分の存在についてだ。容姿も願えばいじれるようで色んな自分を視てきた。名前は変わらなかったので探し出すのは容易だった。そして、その世界には俺が二人居ることになる。つまり俺はその世界では、ニセモノというわけだ。
そして発動条件は願うこと。
こういう世界に行きたいなと。そしてそれは何重にも願える事が出来る。
例えば行った世界の先で、奢ってもらえない世界が存在したする。その事実が確定してから、奢ってもらった世界に行こうとすると、その世界の俺は飯を食べている。
それを俺はただ視る事が出来る。
それでなにが出来るというわけでは無いが、こういう世界もあるのだと観測することが出来る。話はややこしいが、俺が願えばその結果を得た世界を見ることが出来る。
自分が居ない世界というのに恐怖を感じながらも、行ってみたことがある。
その世界では、俺は存在しないものとして扱われ、世界は正常に回っていた。結局すぐに戻ったが、心の中では言い表せられないほどの虚無感が広がっていった。
そんなこんなで俺は毎日色々な世界を旅してきた。
21にもなるとその能力の活用方法に幅を広げていった。知識、スキル、経験を他の世界で学んでからそれを土産に元の世界へと帰ると大抵の仕事は難なくこなせるようになり生活に支障は無かった。
その知識で大きなことも成し遂げることが出来たかも知れないが、俺はひっそりと暮らし、平行世界を楽しんだ。
何故大きな事を成し遂げなかったのか、別に欲がないわけではない。ただそれをしてしまうことに強い抵抗を感じた。沸き立つ欲は誰かに操作された物では無いのか? とありもしない事を想像してしまい、それにただ従う人生に吐き気を覚えた。それに恐怖が俺の行動力を小さくさせる。
その強い欲望に一度でも従ってしまえば、歯止めが効かなくなり、”俺”という人格が崩壊してしまう気がしてならなかった。
だから俺はひっそりと何もせずに、こちらの世界で暮らしながら、ただ観測することに勤しんだのだ。
さて、長くなってしまったが、これが俺の今までの人生だ。俺は飽きていた。平行世界の旅に……色んな自分を視てきたし色んな世界に飛んだ。
もう思いつくものがない……と思った時、俺はある願いを叶えていないことに気がついた。
自分がもし女だったときの世界は?その女性はどんな姿でどんな性格をしているのだろうか?
それが気になった俺は、早速世界を願うと光が包み込んでいった。
病院特有の匂いが鼻孔をくすぐり、目を開けると基本色が白…天井と壁は白。床だけは白では無い。
匂いで感じ取った通りココは病院の…廊下だった。
あたりを見回すが、どうも心当たりのある女性が居ない。患者だろうか? それとも医療関係者なのだろうか?
しかし、なんでこうも看護婦というのは何処か唆られるものがあるのだろう……
「あの……すみません……どなたかお探しですか?」
数々の看護婦に見惚れていると、一際目立って美人の看護婦が目の前に立っていた。
目はキリッとした鋭くて綺麗な形をしている。かわいい系ではなく綺麗系の美人だ。
苗字を出せばすぐ見つかるであろう、俺の女版(言い方があれなので以後俺女と略す)を探すにはこの人に聞くのが良いのでは無いのか?
そしてついでに、この人の連絡先を聞いてしまおう。というか好きだ。好みのタイプにどストライクだ。
この人と人生を歩みたいと俺の直感が訴えかけた。絶対元の世界に戻ってから、この人に俺はアタックをして、何が何でも彼女をゲットする。そのためだったら、俺は医学世界で学んだ数々のスキルを披露しよう。
「あ、あの……|戦ヶ原《いくさがはら》さんって人が此処に居ると聞いたのですが」
「はい!なんでしょう?」
「ですので、戦ヶ原っていう苗字の方を……」
「あ、はい……なんでしょう」
どうも話が噛みあっていないようだ。俺は困ってしまって作り笑いを浮かべる。
「ですか―」
「戦ヶ原さん……いま大丈夫?」
「はい」
「ん?」
彼女は他の看護婦に”戦ヶ原”と呼ばれて……返事をした?
ええええええええええええ!? これが俺女!?
それが俺と俺女の出会いだった。
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